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読書・ふらりとどこかに行く
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絵を書いたり文を書いたり時々写真を撮ったり。
コーヒーとペンギンと飛行機が好き。
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三国志大戦関係
メインデッキは野戦桃独尊、独尊ワラ。君主名はなばーる。
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白雷電が大好きです。以上。
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航空関係のプロジェクトXな話が好物です。

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注意書き

・三国志大戦の二次創作ssです。
・SR魏延+UC馬岱(女体化)です。
・IFもので、「逃避行エンド」がお題です。
・諸葛亮の扱いが少しひどいです。

以上の事を踏まえて、ご了承いただける方のみ「つづきはこちら」からどうぞ。
フォントサイズが大きくなります。

 丞相が死んだ。その報せはさざなみのように蜀の陣営全体に広まった。
 もちろんこの事は、ここから少し離れた所に陣を張っている魏延の耳にも既に入っているだろうと姜維は考えた。
 今まで自分の事をあまり重用せず、起死回生の作戦を提案しても相手にしてすらくれなかった疎ましい男が死んだ。その次に軍事をよく理解していると自負しているのは自分なのだから、当然指揮権を受け継ぎ、北伐を継続するように主張するだろう。
 しかし魏延はそうは動かなかった。伝令の兵が伝えたところによると、ただ瞑目して、お悔やみ申し上げるとだけ言ったそうだった。
「馬岱」
「はい」
 姜維は傍に立つ人物に声をかけた。
「魏延を討ちなさい」
「……はい」
 少し声に驚く気配があった。姜維は相手と向き合うように座り直した。
 視線の先には、白い髪が何よりも先に目を引く女が居る。あごの辺りを襟巻きで隠しているから性別はぱっと見ただけでは分かりづらい。けれども、背丈が姜維よりも低く、体格もそんなに優れていないから、それでやっと、男ではないと分かる。
「いくつか方法がありますので、細かく伝えておきます」
「はい」
 そういえば、と姜維は思う。自分は彼女がいいえ、と言ったところを見たことが無い。
「丞相の予想では、彼は撤退しなけらばならないと知ったら怒るでしょうから、我を忘れて兵権を渡すように私たちの前に出てくると言うのです。この時は私が彼を挑発しますから彼が三回同じ事を叫んだら斬りなさい」
 馬岱はただ、相槌を打った。
「けれども、丞相が死んだというのに彼は落ち着きすぎています。何か裏があるはずです。そこで、もうひとつの方法です。我々が、彼が反乱を起こしたという事にしてしまいます。魏文長は我々の下で働く事を望まないでしょうし、我々だって、いつ暴発するか分からない爆弾を抱えたくない。だから、彼の首級だけを持って帰ってきてください」
「……はい」
 返事が切れが悪いのが気になった。きっと、自分に魏延が殺せるのだろうかと不安がっているのかもしれない。それとも、裏切り者扱いされる事だろうか。
「あなたの事は大丈夫です。相応の官位を授けますし、あなたが裏切り者と罵られる事もないように取り計らいます」
「はい……」
 それでも馬岱の返事は曇っていた。
「丞相は自分の死後、彼を抑えられる者が居なくなる事を不安がっておりました。だから、何も案ずる事はありません。前者の方法なら我々もその場に居ますから手を貸せます。けれども、挑発自体に乗らなかった後者の方法で、どうしても彼に隙がなくて殺せなかったと言うのなら、後々成都に帰った時に私が呼び出して殺します」
「……わかり、ました」
 彼女は震える声でそう言って、拱手をするときびすを返して姜維の幕舎を出て行った。


 馬岱は魏延の陣へ向けて馬を走らせた。本陣から遠ざかり、魏延の陣営に近づくにつれて、なるべく遅く着いたらいいという気持ちが湧き上がってきた。
 裏切り者と罵られる事よりも、官位を得られる期待よりも、魏延を殺さなければならない事のほうが辛かった。
 魏延を殺したくなかった。出来る事なら、それ以外の道を探したかった。今の自分を自分たらしめているのは魏延に他ならない。諸葛亮に忠義の臣であると褒められるよりも、魏延がよくやった、と呟いてくれる方が嬉しかった。
 胡蘆谷で、諸葛亮の命令で魏延もろとも魏軍を焼くように命じられた。結果から言うと、諸葛亮は魏延を殺しそこね、怒る魏延をなだめる為に、馬岱を五十杖の刑に処した上で官位を剥いだ。
 馬岱は策を授けられた時、何度も魏延も焼くのかと諸葛亮に訊ねた。はじめの内はやわらかく頷いていた諸葛亮も、何度も確認されてとうとう語気を荒げ、「あれは蜀の未来の為には危険すぎるのです」と怒鳴った。確かに魏延の行動に身勝手な点は多く見られたが、危険と断言できる程ではないと馬岱は思っていたから、諸葛亮が言うのはどういう意味かは分からなかった。
 自分には何の落ち度もなかった筈なのに鞭打たれた時の絶望感は、言葉に表しがたかった。けれども、これが自分の身の丈に合った地位なのだと言い聞かせた。これはきっかけに過ぎず、今までろくに戦果も上げられなかったから、いずれは落とされていたはずなのだと思うことにした。
 どれほど放心していたのか、時間の感覚もなかったが、やっと気持ちを入れ替えて、荷物を纏める為に幕舎に向かった。そんなに荷物はないから、早めに引き払えると思った。
 幕舎の中に足を踏み入れて、そこで立ちすくんだ。
 来客用の折り畳み椅子に魏延が座っていた。馬岱が帰った気配を察してか、顔だけこちらに向けていて、目が合ってしまった。殺される、と思うと腰が砕けてその場にへたり込んだ。
「やっと帰ったか。傷は痛むか?」
 魏延が椅子を立ちながらそう言った。
 彼は次に、自分との間合いを一気に詰めて一刀両断にするつもりだ。
 声も出ない。動けない。息が出来ずに喉がひぃと、小さく鳴った。
「……武器は持ってきていない。貴様をどうかしようとは思わない」
 そう言いながら両手のひらを馬岱に示して見せた。確かに、よく見ると帯刀もしていない。
「丞相に貴様を部下にしたいと申し立てておいた。すんなり聞きいれてもらったから、それを伝えに来ただけだ」
 馬岱はやっと、うん、とだけ言えた。魏延が近づき、しゃがみこんで、馬岱と目線の高さを合わせた。
「貴様には将としての働きを続けてもらう。第一将として動かせる人間が少ない今、貴様のような奴でも必要だ。それに、丞相は人間を駒のように扱いすぎる。貴様もそうは思わんか」
 確かにそうだと思った。けれども、口に出すのははばかられた。
「わかったか。これから俺の下で働け」
 それだけ言うと魏延は幕舎を出て行った。
 それ以来、馬岱は魏延の傍に居るようになった。はじめは何をされるか分からない恐怖心から口も聞かなかったが、魏延の方から色々と働きかけてきたせいで、次第に打ち解けるようになった。
 後々、諸葛亮に呼び出され、処罰に対する真の理由を聞かされたが、そのときには既に、そんな事はどうでも良いと感じた。ただ、もっと早くに魏延と親しくなっておきたかったと後悔していた。
 随分乱雑で威圧的で自信に満ちた言動を取るが、魏延は優しい人だと思った。
 あの時の恩を返すべきだとずっと思っていた。けれども、今までそんな機会はなかった。魏延は強すぎて馬岱が手助けする暇もなく活躍してしまう。誰の手も借りずに強く在れる魏延がうらやましかった。
 しかし、却って強くなりすぎた魏延は周囲から疎ましがられ、孤立していった。
 だから、今が彼の命を助ける、その時ではないかと思った。


 本陣から帰った馬岱を、魏延は長旅から帰った旅人を迎えるように自ら出迎えた。まさか、自分が殺されるとは夢にも思っていないようだ。
「わざわざ貴様を呼ぶくらいなんだ。どういう用件だったんだ」
「はい、丞相の遺言で、退却するそうです。殿軍は我々です。兵権は楊儀殿が全て任されるとの事でした」
 そう告げると、彼はほんの一瞬忌々しげな顔をした。
「姜維はこんな事を伝える為だけに貴様を本陣に呼んだのか」
「ええでも、文長殿、下手に伝令兵を使ってしまうより、退却を魏軍になるべく悟られないようにしたいと思ったのではないでしょうか。それに、なぜ怒っておられるのですか」
「怒らずに居れるか。重要な事を伝えなければならないとか言っておいて、ただの退却命令だったんだぞ。それに、殿軍なんて危険な真似、誰だってやりたくはない。丞相の遺言だからやるだけだ。楊儀の事も含めて成都に帰ったら文句言ってやる。陛下に直訴してやる」
 ふてくされた子供のように文句を言いながら、地図と竹簡をかき集めて机の上に投げ置いた。
「俺は退却の計画だとかを練っておく。疲れただろうから寝るがいい。俺の寝台を使え」
 そんなに疲れていないから大丈夫だと言おうとしたけれども、魏延が自分のマントを放って寄越した。寒くなる事を見越してか、既にマントは厚手のものだった。
「それがあれば多少暖かい」
 それだけ言って、魏延は地図と向かい合った。
 鎧を外し、袍だけになって寝台に寝そべった。簡素な寝台は、一人で横になっただけでぎしりと嫌な音を立てた。
 寝台の中で、馬岱は袍の隠しポケットから小さな容れ物を取り出した。以前、馬超から貰った薬包が入っている。今まで使う機会はそんなになかった。
 一種の毒だ、と馬超は説明していた。女が膂力に差のある武人を殺すのは難しいし、本当にいざとなったら、苦しまずに死ねる手段だと言っていた。本当は馬超の病気の発作を和らげる薬だったが、本人が死んでしまった為、今の今まで使われなかった。
 一定の量以下では強力な眠り薬だが、それ以上では眠ったまま死ねる。味はないから飲食物に混ぜるのも簡単だし、いざとなれば口移しで相手に含ませるのも良い。
 けれども、どういう風に含ませればいいのか。そう考えながら、馬岱は薬を仕舞い、布団を被り、枕を手繰り寄せて丸くなった。枕に顔を押しつけると、微かに持ち主の匂いがした。夜中に寒くなったら魏延が使うだろうと思い、マントは足元に畳んで置いておいた。
 

 頬に柔らかいものが当たる感触がある。
 ふと、目が覚めた。幕舎の中はまだ薄ぼんやりと明るかった。外は少し騒がしい。馬岱が半身を起こすと、肩からマントが落ちた。多分魏延が掛けてくれたのだろう。枕元に置いた眼鏡をかけ、マントを羽織って寝台から抜け出した。
 幕舎のなかに魏延は居なかった。机の上の蝋燭は大分短くなっている。地図を見ると、端の方に小さな字で走り書きがしてあったりする。もう退路の計画は練られたようだった。
「起きたか。腹、減ってないか」
 背後から声がした。
「はい、少し減っております」
 馬岱は寝起きのぼんやりする頭を振りながら答えた。
「じゃあちょうど良かった」
 魏延が盆に載った何かを突き出した。白く、やわらかく盛り上がる饅頭が三個載っていた。
 饅頭を見て、おいしそうだと思うよりも早く、これなら悟られる事無く魏延に薬を盛れそうだと思ってしまった。
「撤退するから、これから先は干飯ばかりになるぞ。今の内に食え」
 そう言いながら自分も一つ取り、頬張り始めた。あっという間に食べてしまう様子が、何だか微笑ましかった。
「二個はお前のだ」
「文長殿は一個で良いのですか」
「俺は外で食べたから良い」
 そう言われて馬岱は一応ありがたく頂く事にした。
「退却の手筈はどうしたのですか」
「もう既に部下に指示を出してある。貴様はただのんびりしていれば良い」
「文長殿は? それに、いつ休まれるのですか」
「俺は最後の部隊の指揮を直接執る。休みは暇を見てちょっとずつ取る。気にするな。まあ、成都に無事帰るまでは貴様を抱く暇もないがな」
 自分に対する指示は全く出ていないが、これは一緒に付いてくるようにということだろうか。
「私はどうすればいいのですか」
「臭い台詞だが、俺に付いて来てくれるか」
「はい」
 魏延は満足そうに笑って馬岱の頭を撫でた。ごつくて大きな手は、昔、まだ元気だった頃の馬超を思い出させる。相手は髪に指を絡めては解くのを繰り返している。この頃髪の手入れをしていないからあまり触って欲しくないのだが、それでも、ただ撫でられるだけで得られる大きな安堵感には、何となく抗いたかった。眠りに就く前のまどろみに似た心地よさがあった。
「撤退する事には、随分ご不満な様子でしたが」
「今だって不満でいっぱいだ。けれど命令は命令だ。従わなければならん。上手く退却してみせる」
 魏延は馬岱の髪をいじり続けている。
「それに俺には蜀しかない」
 何気なく言ったのかもしれないが、馬岱にはとても寂しい言葉に思えた。
 何度も、丞相の命令だから、と前置きしながら行動するのを見ていれば分かるが、彼にとっての蜀は「丞相の居る蜀」であって、それ以外の何物でもないはずだ。
 その「蜀」は、馬岱が見る限り、もうどこにもない。
 でもよく考えれば、自分も似たようなものだ。昔は馬超を、今は魏延の命令に従って、彼らの後ろにずっと付いて回っている。
 今はお互いに、目印とする何かを失いつつあるのだ。
 こんな事を面と向かって言ったら絶対に魏延は怒るだろうが、この人が哀れだと思った。
 馬岱はゆっくり饅頭を咀嚼し、飲み込んだ。魏延は何が楽しいのか、まだ馬岱の髪に触っている。なぜそんなに触りたがるのか、そう訊こうとした時だった。
「魏将軍、第二隊の準備が完了しました」
「今行く。馬岱、すぐ戻るから」
 魏延は兵卒の伝令を受けて幕舎を飛び出した。
 魏延の足音が遠ざかる。
 細工をするなら今だ。
 盆の上に残った饅頭を割る。片一方の肉を取り出し、そこに薬を仕込んだ。皮と肉の間に仕込むとばれてしまいそうだったから、肉を更に分けて紛れ込ませた。致死量とまでは行かないが、確実に一日は起きられない量だ。
 幕舎の中には馬岱以外誰も居ない。魏延が馬岱を全面的に信用しきっている証拠でもあるし、どんな時でも侵入者を自力で排除できるという魏延の自信の表れでもあった。
 けれどもそれが今は魏延に災いした。
 薬を仕込んだ饅頭を盆の上に戻し、指にわずかに付いた薬の粉を袍の裾で拭き取ってから、手を加えていない饅頭を食べた。饅頭はそこそこの大きさがあり、一つ半でも充分腹は膨れた。
 饅頭を食べ終わってしばらくして、魏延が戻ってきた。
「文長殿、ご馳走様でした」
「残りは食べないのか」
「饅頭自体が結構な大きさですし、もうお腹いっぱいです。文長殿が召し上がって下さい」
「じゃあ、お言葉に甘えるとしよう」
 馬岱の残した饅頭を魏延は二口で食べた。急いでいるのか、それとも本当に腹が減っていただけなのかは分からないが、最初と同じように平らげた。そして、水を飲んですぐにまた外へ出て行った。
 馬岱はそれを見送ると、すぐに身支度に取り掛かった。
 当分の携帯食料と水筒と救急用の薬、地図、路銀などを一纏めにし、その中に魏延から借りているマントも詰め込んだ。それが済むと胴当てと篭手とマフラーをまとい、来るであろう報せを待った。
 しばらくして、兵卒が慌てたように幕舎に走りこんできて、魏延が倒れたと告げた。


 粗末な磁石と太陽を頼りに、馬岱はひたすらに西を目指した。
 整備された道は既に尽き、それまで思い出したように出てきた村落も見当たらなくなり、ただ眼前には橙色になって地平線に消えていこうとする太陽があるだけだった。
 夕日に照らされて、枯れ草が風に頭を撫でられている。その中を、馬岱はひた走る。眠る魏延を背負い、この世の果てを目指す心持で、西日を睨み付けながら馬を駆った。
 口の中が乾いてざらざらするのが気持ち悪い。一日走り通しで、もう自分も馬も限界だ。
 涼州はまだ遠いが、蜀にはまだ近い。まだまだもっと、追っ手よりも早く遠くに行かなければ、自分も捕まって、魏延と一緒に首だけになってしまう。
 その時、かすかなうめき声がして背中で動く気配があった。
「文長殿!」
 馬岱は反射的に馬を止め、半ば落馬するように馬から下りた。魏延の体を固定していた紐を解き、地面に横たえる。荷物の中から水筒を出して、目覚めるのを待った。
 夕日の眩しさに目を細めながら、魏延は目を開いた。
「……ここはどこだ」
「私にも分かりません。涼州を目指しているところでございます」
「退却は……」
「分かりません。けれども今頃、本陣に着いて文長殿と私が居ないのを報告しているところでしょう」
 魏延はしばらく目をしばたいた。そして、やっと理解したかのようにただ一言呟いた。
「馬鹿な事を」
「私は、あなたの事が大事でたまらず――」
「下らん」
 魏延は吐き捨てるように言った。まだ薬が残っているらしく、呂律が余り回っていない。
「いくら貴様にとって丞相の命令が理解できなくても、俺にとっては絶対実行しなければならないものだ。何でこんな事をしたのかなんて分からんが、帰るぞ」
 馬岱は胸の辺りを強く打たれたような気がした。まさかこんな答えが返ってくるとは思わなかった。
 魏延は馬岱を突き放し、立ち上がろうとして尻餅をついた。意味もなく髪を掻きむしる。イライラしているようだ。
「帰るぞ。手を貸せ」
「嫌です」
「何を言っているんだ。早くしろ」
「帰るならお一人で帰って下さい」
「駄々を捏ねるな」
「帰って、殺されてしまえば良い」
「貴様今何と言った? 殺される? 俺がか?」
 魏延は馬岱の胸倉を引っ掴んだ。
「ふん、嘘だろう」
「嘘ではありません。私は本当はあなたを殺さなければならなかったのです。もっと説明してさし上げましょうか。姜将軍は丞相の遺言に従ってあなたを挑発して殺すつもりでした。それに、あの時も、あれは私の手違いという事になっていますが、本当は丞相が本気であなたを亡き者にしようと考えた策でした。私はあの時何度も丞相に文長殿も殺すのかと確認しました」
「……丞相は……蜀には俺は要らんのか」
 魏延の顔から、表情がゆっくりと消えた。
「姜将軍達はあなたを殺す気満々です。成都に帰ったとしても、何らかの手を使ってあなたを殺すと言っていました。私は誰も裏切りたくなかった。けれど、あなたの事はもっともっと裏切りたくなかった」
 魏延は茫然自失といった様子で、馬岱の胸倉を掴む手を緩めた。
 どうとでもなれと思った。自分がしたことは結局何の良い結果も招かなかった。
 魏延にその気があるなら、彼はここで自分を殺して蜀に帰るだろう。薬で多少弱っているとしても、魏延くらいの筋力があれば馬岱を絞め殺すなんてたやすい事だろう。馬岱は俯いて目を閉じ、魏延がどう動くかを待った。
 しばらく、双方共に動かなかった。
 冬の到来を遠巻きに告げる冷たい風が耳元で低くうなるような音を立てている。
 ふと、俯いてしまった事を馬岱は後悔した。最後に魏延を見ることもなく死ぬのかも知れないと思うと、それだけの些細な事がとても惜しいと思った。
 衣擦れの音。魏延が動いた気配。
 まず頭に触れられる気配があった。昨夜のように髪に指を絡める気配もなく、ただそっと触れるだけだった。たこで硬くなった指先が耳朶を滑り、あごの骨をなぞり、首筋に辿り着いた。
 首全体で、魏延の手のひらの温かみを感じた。このまま押し倒され、首を絞められる自分を次に想像した。
 けれども、魏延の手は馬岱から離れた。
「味方に殺されるのは、嫌だな……」
 その声に、馬岱は顔を上げた。顔を上げると同時に魏延と目が合った。夕日の色に似た彼の瞳が、馬岱を見据えている。
「馬岱」
「はい」
 魏延が笑った気がした。微かな、見落としてしまいそうなほどに弱々しく、寂しい笑みだった。
 そして、少しだけ言うのをためらうような顔をして、深呼吸して言った。
「貴様の故郷が見たい」




6/25追記
あとがき書いていなかったのでちょっとだけ書き足します。
馬岱をわざわざにょたったのはエロを入れたいと言う不純な動機からでしたが、結局入れずじまいになってしまいました。
書いた後何度か後輩に誤字脱字チェックも兼ねて読んでもらいましたが、「上手いっすよ」「文句ないっすよ」「誤字発見」しか言われなくてがっかりでした。
書き終わったら終わったで、胡蘆谷直後の魏延と馬岱も書きたくなってきたので、もしかしたら書くかもしれない。
自分の書く話は、決定的に悪い人が居る訳でもなくどこか寂しい感じに進むのが何となく嫌だ…。

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