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なば
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非公開
趣味:
読書・ふらりとどこかに行く
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絵を書いたり文を書いたり時々写真を撮ったり。
コーヒーとペンギンと飛行機が好き。
twitter=nabacco

三国志大戦関係
メインデッキは野戦桃独尊、独尊ワラ。君主名はなばーる。
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白雷電が大好きです。以上。
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航空関係のプロジェクトXな話が好物です。

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※十年前の文です。
最近よく「絵と文で印象が全然違う」と言われる事しきりなので、そうかしら、と思って試しに昔々の創作を上げてみたのでした。

例によって、「つづきはこちら」へ。

 キトは来た時と同じ、一両だけの電車に乗って帰っていた。
 キトはこの二、三日の間に起こったことがまだ十分消化できないでいて、ひょっとして自分は夢でも見ているのかと、思うことがあった。それは、キト自身は意識はしていないのだろうけれども、ぼんやりと窓の外を流れ行く景色を眺める眼差しにそれが表れていた。
 それだけ途轍もなく大きな事だったように思われる。それはキトが一番よくわかっている。わかっているのだけれど……分かっているはずなのに……
 それでも、いずれ時間が経っていくにつれて、ほかの記憶と同じように消えていくのだと思うと寂しく思われてならなかった。
 事の起こりは、去年の夏休みの始まりにまで遡る。
  その頃キトは、沖縄の大きな病院にずっと入院しているというというハンドルネームの人物とメールのやり取りをしていた。キトの初めてのメール友達だった。
 要とはキトが運営するサイトの掲示板で知り合い、二、三日おきに書き込みをする要の提案でメール交換をすることになった。

 

 今日は今晩は。キトだよ。元気にしていた?
 この前要さんが言っていたメール交換の件だけど、僕はいいと思うよ。大歓迎!
 要さん、僕とのメール交換が初めての交換だって言っていたけど、実は僕もメール交換は初めてなんだ。
 だから僕も楽しみ。返事はメールで頼むよ。
 それじゃあまた今度。返事待ってます。ばいキト


 今日はキトさん。要です。元気でしたか?キトさんが私とメール交換をしてくれる事をとてもうれしく思います。
 沖縄では日に日に日差しが強くなっていって、肌の弱い(どうも蛍光灯の明かりも避けた方が良いらしいの。しくしく)私はこんなとき、北海道に住んでいるキトさんの事が羨ましく思われるんです。
 こちらではハイビスカスの花が咲いています。キトさんの住んでいる北海道ではどんな花が咲くんですか?教えてください。


 今日は今晩は。キトだよ。元気にしていた?
 花……ねえ……僕はあんまり花に興味が無かったりするんで、どんな花が咲くのか、とかそう言ったことは全く分からないんです。ごめんね。けれど、確か、すずらんは夏に咲く花だったような気が……。あ、信じないで。記憶が薄いもんで……。
 それはともかく、北海道でも札幌辺りはフェーン現象が起こって過ごしにくいそうですし、僕なんかこの温度(現在二十℃)でもぶっ倒れそうに感じています。キー打っている傍からぶっ倒れそう……。
 それじゃあまた今度。返事待ってます。ばいキト。


 北海道と沖縄とではやはり色々と違いがあるな、と改めて思い知らされるような事が僕には沢山あった。もちろん、要さんにもあったに違いない。それでも、今となっては分からずじまいだ。
 それから高校生である僕は学校の課題に翻弄されながらメールを出し遅れることはあっても、メール交換を止めにしようとは思わなかった。というより、思いたくなかった。深夜に開く要さんからのメールのおかげでその日のことは何もかも忘れられる気がしたからだ。多分それは、遠い所から長い長い時間をかけて届く手紙を待つ気持ちに似ていた、と僕は思う。メールを始める前まで文通をしていたから分かるのだけれど、ポストに返事を入れた瞬間から、返事が来るのが待ち遠しいのだ。
 僕にとって、要さんという存在が半ば空気のように重要な存在になりつつあった時、僕はすでに進級し二年生になっていた。
 それでもメールのやり取りは続けていた。
 僕にとって、要さんは本当にいい人だった。知り合いには要さんは本当は意地悪な人かもしれないとよく言われたが、僕はそうは思わなかった。彼女の文を見ればそれは分かった。彼女は純粋にいい人で、純粋に心のきれいな人だとわかった。
 僕、キトは二年生になっても彼女とのメール交換を続けた。周りが忙しくてもどうしても僕は彼女とのメールのやり取りを止められなかった。今思うに、それはただの現実逃避だったのかもしれないけれども、当時の僕にとって、彼女のメール以外に心の安らげるものがなかったからかと思う。
 実を言うと、二年の夏休みになれば誰でも薄ぼんやりとでも自分の未来が見えてくるというものだが、僕にはまったくと言って良いほど見えてこなかった。
 教師にも親にも口酸っぱく言われたが、僕は何も考えようとしなかった。考えるのを自然に避けていただけだと思うけれど。
 そしてそのまま夏休みになった。けれど、一つ変わったことがあった。
 要さんからのメールが突然ぱったりと来なくなったのだ。
 僕は要さんに何度もメールを出した。何か書いていなかっただろうかと今まできたメールを確認したが、それまでのメールには何も、変化に関することはかかれていなかった。
 そしてそのまま不安を抱えたまま、僕はのろのろと宿題をはじめて、続けた。
 夏休みの七月がそんな調子で過ぎ、八月が訪れようとしたとき、これまた突然僕の元に見知らぬ人から心当たりのないメールがきた。
「拝啓 キト様
 この度は突然にメールを出しまして、大変ご迷惑をおかけします。
 折り入ってキト様にお話したいことがありましてメールを出しました。
 キト様とメールのやり取りをしていた「要」という人物についてです。
 あれは私どもの機関が総力をあげて開発した心(というプログラム)を持つ一種の機械です。私どもは2050年までにこのプロジェクトを成功させなくてはならないので、より完璧な「心」を完成させる為に「要」にネット空間を試験的に与えたのでした。
 試験的に与えたネット空間で「要」(私どもの間ではe-angel3号機と呼んでいます)は偶然にあなたと出会い一年以上の期間を経て、人間の、細やかな心の動きに近い反応をするようになりました。
 私どもは3号機は成功だと思いました。しかし問題があったのです。
  3号機は、キト様に会いたい、会って直に話をしたい、と駄々をこねるようになったのです。
 私どもは反対をしました。反対をしてみました。
 すると3号機はショックで機能不全に陥り、起動できなくなってしまいました。
 私どもはここで3号機を失いたくないと思い、3号機に接触を試みました。
 それでも3号機は反応しませんでした。
 そこで、かくなる上は、と思いキト様にアクセスしてみた次第です。
 キト様の時間の自由な時に、いつでも私どもの機関にいらして下さい。
 心よりお待ちしております。
 なお、アクセス方法は以下の通りです。
 2050kokoro開発機関    」
 僕は半ば信じ難い気持ちでそのメールを繰り返し読んだ。
 少し迷った。
 そして決めた。
 僕はその機関のアドレス宛にメールを送った。
 「明日行きます」と。

 翌日僕はメールに添付されていた地図をプリントアウトしてその開発機関に行く道程を調べた。かなり遠い、それこそ北海道の北の外れといっても良いような所にそれはあった。長年北海道に住んでいる両親すら知らない所だった。
 僕は電車に乗った。それが朝の七時だった。
 そのまま電車に揺られて、キトはただずっと景色だけを見ていた。
 牛がいた。草を食べていた。
 木の電柱があった。使われていなくて、ぼろぼろだった。
 昼になった。それでも、夏の太陽は弱く感じられた。
 日が傾いてきた。西側が特に綺麗で、思わずため息をついてしまった。
 日が沈んだ。何だか僕は、この電車は自分を地の果てまで連れて行くのではないだろうかと、ふと不安になった。
 やっと、僕は終着駅に着いた。終着駅は無人の駅で、蛍光灯の明かりだけが暗闇にかき消されないようにするかのように輝いていた。その輝きの下に、蛾が何匹か集まっている。その下で地図を読んだ。
 あぜ道のような細い道の向こうに、例の開発機関が煌々と光を放ってかまえていた。
 建物の玄関で、スーツを着た男と他にも何人かの白衣を着た人間が立って待っていた。
「今晩は。遙々遠い所からようこそ。キトさんですね。私は長谷川です。」
「はい。今晩は。何だか私の書いたメールのせいで大変な事になってしまったようで申し訳ありません。」
「いいえ、私達こそ、唐突にメールを出してしまって申し訳ありません。その上、また、申し訳ないことに、三号機とキトさんとのメールはすべてチェックさせて頂いていまして……。」
「はあ……。」
「今夜はもう遅いのですが、キトさん、余裕がありましたら三号機と会ってみませんか?」
「はい。」
 時計を見るともう八時だった。僕は長谷川さん達の為にも早めに事件を解決してあげたい、とそう思った。
「では、これを。」
 そう言ってヘッドホンのような物が差し出された。
「ここの機械は大抵の……そう、私達が喋っているのとほぼ同じレベルの言語を理解する事が出来ます。これは機械の言葉と人間の言葉をそれぞれ自動翻訳するものです。」
 僕はヘッドホンを受け取って、頭に付けた。
「それでは行きましょうか。」
「はい。」
 そう言って僕は建物の中へと案内された。


 建物の中に、長い廊下があってその両脇がガラス張りの部屋がある部屋があった。そこには業務用冷蔵庫とほぼ同じ大きさのハードがあった。それぞれの廊下に面した方の面にまるで軍隊のようなレタリングで大きな数字が書かれていて、それぞれ0から9まであった。
『あ、ちょっとちょっと、こんな時間に外部の人が来たぜ。』
『てゆーかこの時間に、じゃなくて外部の人間が来るのってここ四ヵ月程なかったわよ?』
『まあ、また今日辻山さんがいらしてくれたわ。辻山さーん!』
 部屋に入った途端にヘッドホンから様々な声が聞こえてきた。しかし皆が皆、辻山さんと呼ばれた女性以外が、無反応にそれらの前を通り過ぎ、僕の言う要さん、彼らの言う三号機の前に来た。
「ほら、我々が来ても沈黙したままでしょう?」
「何か、あなたと三号機の間だけで通じる物ってないでしょうか?」
「メールの文頭にいつも同じ文句を書いていたけど、それでフェイントはかけられなかったのですか?」
「はい、全く。」
 僕は要さんを見た。僕よりも遥かに大きく、僕よりも遥かに頭が良さそうで、それでいてまだ幼すぎるもの、と、そう思った。
「今日は今晩は。キトだよ。元気にしていた?」
 僕はメールの文頭に書いていた文句を言った。うんとも寸とも言わない。
「それじゃあまた今度。返事待ってます。ばいキト。」
 今度は文の終わりに書いていた文句を言ってみる。ひたすら、沈黙。
『ねーちゃん?それともにーちゃん?駄目駄目、三号機は起きないよ。』
『そうよ、私が言っても起きませんもの。』
 すると今度はまた、ヘッドホンから子供の声や大人の声が聞こえた。
「気にしないでください。彼らはこんな風に人、特に外部の者が珍しくてたまらないんです。半年前、文部科学省の大臣が来たときなんか、好奇心から大臣を怒らせてしまいましてね。後が大変でしたよ。」
「え?これって国が関わっていたんですか?」
「はい、そうです。」
 そんなニュースは聞いたことはなかった。文部科学省大臣がこんな辺鄙な田舎に来ていた事もニュースでは聞かなかった。
「この機関は人間と同等の、サッカーのように人と人の駆け引きの出来るような自律型ロボットを作るのを第一の目的として作られた機関です。その目標の年が二千五十年ですから機関の名前も『2050kokoro』と決められたんです。しかし、それ以上の目標もあります。このプログラムがもっとずっと進化したのならば、例えば、トラウマを負ってしまった人々の心を元通りに回復するのが可能になるのではないか……、と。そう考えて始まりました。」
「それは違うと思います。」
 長谷川がそう説明し終えると、間髪入れずに僕は反論した。
「私は以前、『人が出来ない事を機械にさせるのが本来の目的であるのに、人が出来ることを機械にさせている』と言っていたどこかの教授の話を聞いた事がありました。確かに私は、人が出来ない――例えば炎の中に入っていって消火活動をするとか、そんな事をするためであればロボットはこの上なく重要なものであると思います。けれども私は、人の形をしたロボットが人と同じように振舞い、人と同じように挨拶をするのを見て何だかぞっとしました。」
 一呼吸置いて、つばを飲み込んで言った。
「別に私は、あなた達を否定する気で言っているのではないんです。何だかさっき自分で言って自分で否定するような気がして何だか嫌なんですが、生まれたままの姿で生まれたままに生きたほうが、人間としては自然じゃないでしょうか。」
 しばらく沈黙が流れる。
「あなた達のしていることは、間違っているけれども素晴らしい事だと思います。」
 僕はまた言った。言っておいて自分で何だか変な気分になってきた。
 本当に矛盾しているのか、本当はパラドックスなのか。
「お役に立てなくて申し訳ありません。私では三号機を蘇らせる事が出来なかったようです……。その上、素人のくせに学者ぶった口で論じてしまって……。」
 僕はその場を取り繕うようにしょんぼりと言った。長谷川さん達も機械もだんまりとなっている。聞こえるのは蛍光灯がじいじいとなる音と、外の風の音と。
「まあ……。」
 始めに沈黙を破ったのは、長谷川さんだった。
「今は夜という事もあって、三号機は寝ているのかもしれません。もしかしたら明日になったら起動できるかも……知れません。」
 自分のせいで長谷川さんの返事の語尾が弱いのだろうか、と、そう思った。

 僕はその晩、機関の宿舎の一室を借りて一夜を過ごし、翌朝も食堂でお世話になった。
 長谷川さんに呼ばれて三号機の前に来たときには、昨日の面々とほぼ同じメンバーが揃っていた。
 三号機はやはり沈黙したままだった。
 僕は何か役に立つだろうと思い自分のノートパソコンを持ってきていた。施設の電源を借りてパソコンを立ち上げ、短いメールを作成して送った。
「今日は今晩は。キトだよ。元気にしていた?
 僕は今君の前にいるよ。会いに来たよ。
 それじゃあまた今度。返事待ってます。ばいキト。」
 それだけの物だったが、しばらくすると微かな機械の唸りが聞こえた気がした。
「ワタシハ2050ココロカイハツキカンノe-angel3ゴウキコレヨリキドウシマスキドウシマスキドウシマス……。」
 ヘッドホンを通して無機質な声が聞こえた。僕は要さんが本当に壊れてしまったのではないかと思い後ろを振り向いたが、長谷川さんをはじめとする皆は喜んだような顔をしたり、拍手をしたりしていた。
「……キトさん、ありがとう。これで三号機は大丈夫でしょう。けれどももしかして、と言う保険のためにしばらくあなたにここに居て欲しいのですが、よろしいですか?」
 僕は二つ返事でそれを承諾し、その後家に電話をした。
 変化はその三日後に現れた。僕と雑談をしたりして、これまで誰の目にも無事に起動したかに思われた三号機が突然、意味不明の言葉を発するようになった。


 ヒトガイル キトガイル ウレシウレシ スバラシスバラシ
 ズットコノママ ズットコノママ
 キト 私ね キトの事が大好きなの 本当に本当に大好きなの
 ねえずっと一緒に居てよ ねえずっとここに居てよ
 オネガイオネガイ イッショニイテイッショニイテ
 ねえ キト 私あなたと一緒にはなれないのかな
 ソンナコトナイヨネ ネエ ナニカコタエテナニカコタエテ
 悲しすぎて悲しすぎて 胸が 潰れそう て言うのかな
 アアソレトモ ココニハダレモイナクテ ワタシダケガヒトリデイテ
 イヤヨソンナノ サビシイサビシイ
 キトガホシイキトガホシイ


 長谷川さんと僕は壊れたレコード再生機のようにずっと一人で喋り続ける要さんの前に居た。要さんはそれに気がついている様子もなくずっと話し続けているのだ。見えない誰かに向かって。
「長谷川さん、要さんはどうしたんでしょうか?直りますか?」
 強化ガラスの向こうでは、まるで生物兵器でも取り扱っているかのような格好をした研究員が三号機の電気系統を調べている。その内の一人が手を止め、首を振った。仲間が、彼が見ていた部分を見て、なるほど、と言うような目つきになった。
「駄目です。電気系統が完全にいかれています。」
「普通のパソコンみたいに直らないんでしょうか?」
「直ることは直るでしょうが……真っ白の、普通のハードディスクみたいになっちゃいますよ。それからはもう二度とこんなプログラムには戻らないでしょう。」
 研究員が二人に告げる。
「……三号機は……人間で言えば恋をしていたのじゃないかな……?」
 僕の横で長谷川さんがぽつりと言った。
「有り得るんでしょうか……?」
 僕は首をかしげた。機械はどんどん進化していくと言うから、恋心を抱いてしまうような機械が現れたとしてももう全く不思議ではない。と、そう思う。
 それでも、僕は要さんが機械だと知ったときからなんとなくグロテスクなイメージがあった。あった、と言うよりは、抱いてしまった、と言うべきか。
「どうせなら……だ、キトさん。あなたに三号機の総合電源を切っていただきたいのだが……。それが機械とはいえ三号機に対するせめてもの情けじゃないでしょうか。」
 ガラスの向こうで研究員のリーダーらしい人物が言った。
 こんなのを「介錯」と言うのだろうか。時代劇で切腹をするシーンがある。切腹をする人物の奥には刀を構えて立っている人物が居る。それが介錯人で、大体親族や親しい人、それが居なければ一番腕のうまい人がその役をやったと言うらしい。どこかでそれを聞いた気がする。
「……はい。」
 僕は頷いた。
 その後僕は研究員の一人から服を借りて中に入って、そして「総合電源」という小さな赤いスイッチを切った。
 三号機はうなるのをやめた。「要さん」の存在も同時に消えた。
 僕は何だか知らないが涙が出てきた。


 キトは来た時と同じ、一両だけの電車に乗って帰っていた。
 この二、三日の間に起きた事をうまく消化できないで居た。
 それでも時がたてば分かるのだろうか、と思う。理解できるのだろうか、と不安になる。
 いや、それよりも前に自分のこの記憶が薄れていって、この事を、今この場で新鮮に感じて居るこの事を、忘れてしまったらどうするのか。
 その事がとても悲しく思われた。
 顔を上げる。昼の太陽の光が車内に溢れている。自分の他には誰も居ない。
 電車は警笛を一つ鳴らすと、来た時と同じ時間に通った、ちょうど中間点にある鉄橋を渡りだした。


  The End


 この話は私が高2の3学期に成績が振るわないわ、絵を描くのも上手くいかないわとぶーたれながら書いて推敲して、ぶーたれながら3年生になったら「この作品で全国総合文化祭(略称「総文」)行くことに決まったから」と顧問の先生に言われた経緯があります。当時も今も総文がどれだけ凄い物なのか解りませんし、今これを持ち出して「総文行ったことあるんだぞ」と言っても大昔の自慢話みたいな物なんで話さないでいます。
 今見ると「ガキの文章と世界観だなぁ、何でこんなものが全国に行けたやら」と自分でも謎です。謎すぎます。当時の自分が「今の子供が何を考えて作品に落とし込んでいるのかが読みたい」という選考員の先生方の一言を聞いて「把握した」と思った部分をお話に仕立てただけなんですが。
 当時思っていた「もうちょっと先の未来」に今、なりました。でもこの話の中の未来はまだありませんね。将棋とチェスで人間に勝てるようになったコンピュータが出てきた位で、アバウトな思考が出来るコンピュータはまだですね。

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