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なば
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読書・ふらりとどこかに行く
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絵を書いたり文を書いたり時々写真を撮ったり。
コーヒーとペンギンと飛行機が好き。
twitter=nabacco

三国志大戦関係
メインデッキは野戦桃独尊、独尊ワラ。君主名はなばーる。
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白雷電が大好きです。以上。
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航空関係のプロジェクトXな話が好物です。

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注意書き

・「フォーメーション・ファミリー」に出した「丁」というにょ岱の付き人メインのお話です。
・終始魏延がキレ気味です。
・前提としてSR魏延×UC女体化馬岱です。
・「二」から「三」の間が説明不足だったなと思い書きました。

以上の事を踏まえて、ご了承頂ける方のみ「つづきはこちら」からどうぞ。
フォントサイズが大きくなります。

 とうとう膏薬が切れてしまった。指の先に、容器の隅々からかき集めたありったけの物を取って彼女は呻いた。最初から、貰った量だけでは少ないだろうというのは解っていたが、それを誰にも言えなかった。
「膏薬が無くなりましたか」
 そう、苦しげな声が寝台からした。
「大丈夫です。予備の薬もあります」
 咄嗟にそう答えた。嘘だった。予備の膏薬なんて無かった。手持ちの薬には痛み止めも少しはあったが、薬と言うよりも毒の側面の方が強く、あまり使いたくない物だった。それに、悔しいが、この膏薬の効き目は自分の持っている物よりも上だった。
 信用できない、乱雑なだけの上司にとうとう頼らなければならない時が来たのだと思うと、丁は歯噛みした。


 馬岱が寝入ったのを確認してから、丁は魏延の様子を伺った。
 先程帰ってきたばかりで、何かを苛ついて吼えながら当たり散らすように椅子に座り、机に広げた地図を睨んで頬杖をついていた。同じ部屋の中に怪我人が居ることを忘れないで欲しいと、馬岱の寝息が乱れていないか確認しながら思った。
 魏延は、旧来からの配下の将兵達と作戦会議をしてきたようだった。どれだけ議論を重ねても良い作戦が浮かばなかったと見えて、未だに眉間に深いしわを刻んだままでいる。時折、筆の尻をかじったり低く唸ったりしていた。話しかけるのは無理そうな状態だった。
 やはり、こんな奴に聞きたくなんかない。こうなったら自分の薬草の知識から使えそうなのをかき集めてどうにかするしかない。
 そう思って去ろうとすると、魏延が頭をもたげてこちらを睨んだ。
「用があるならさっさと言え!」
 話しかけようとしているのは薄々気付いていたようだが、だからと言って怒鳴るのは対応としてどうかと思った。少し腹が立った。
「膏薬が――」
「それがどうした!」
「……切れました」
 言い終わってもいない内から吼える魏延に怒りを覚えながら、丁はやっとそれだけ言った。
「作り方を教わりたいのですが、大変お忙しそうですので、やはり良いです。何でもございませんでした」
 それだけ言い放って魏延に背を向け、歩き出そうとした。背後で、慌ただしく机を蹴って立つ音がした。
「待て!」
 節くれた手が肩を強く掴んで、強引に振り向かされた。肉が捻れて骨が歪みそうになる程の力だった。
「痛っ」
「膏薬が切れたのか。何で早く言わないんだ」
 謝罪も何も言わない上官にまた腹を立てそうになった。
「仕事は――」
「後回しだ」
 あれだけ怒鳴っておいて、身勝手だと思った。
 ちょっと待っておけ、と言いながら魏延は足早に机に戻り、乱雑に積まれた竹簡と布の山から何かを探し始めた。あちこちを引っかき回す内に軽く土埃が立ち始めた。そんな物には慣れているはずなのに、丁は何となく目を細めてむせてしまった。
 見れば軍議の資料や、書簡や落書きが数ヶ月分溜まっているようだった。片付けが下手なのか物を捨てられない性分なのか、どちらかだと思うが、そんな事は今はどうでも良かった。
 ああ、と言いながら魏延が手のひらよりやや大きめの白い皮を取り出して机の上に置いた。よほど大切にしていたと見えて、水を吸って波打って固まり、所々に染みや汚れがついていた。元々は皮に墨で書かれていたと思われる文字も、長い年月の間に擦れて消えかけたのか、丁寧に刺繍で表現されている。元の文字の癖が解るまでに細かい刺繍だった。
 諸葛亮の丁寧な字も、魏延の怒りに任せて殴り書いたような字も知っているから、これを書いた主の事が気になった。
「これは誰の字ですか」
「先帝陛下だ」
 誇らしげにそう言った。
「昔、俺がただの一隊長だった時に貰ったんだ。これを使うと傷の治りが早くなって良いってな」
 何となく背景が読めた。昔から変わらない、切り傷の一つや二つ何も気にしないがむしゃらな攻め方の魏延に呆れていたに違いない。
「陛下から色々な物を賜ったが、これが一番の宝物だ。何たって陛下の直筆だし、この膏薬の作り方を知っているのは今じゃ俺だけだし、本当に、これは効くんだ。今まで色々試したが、これ以上に良い奴は無い」
 まるで珍しいおもちゃを貰えた子供のように、目を輝かせながら魏延は語った。薬の効果の違いは、混ぜる薬草によっては考えられる事かも知れなかったが、こんな状態の魏延に力説されても、胡散臭さにひたすら拍車がかかるだけのような気がした。
 それでも、馬岱の傷が治っている事や熱が和らいだりするのは事実だった。信用せざるを得なかった。
「書き写してやるから、もうちょっとだけ待てよ」
 心なしか、魏延の機嫌が良くなったように見えた。
「その前に、貴様らの手持ちにこの材料あるか?」
 そう言いながら、目の前に皮紙を突き出してきた。いくつかの材料と分量が記された箇所が、ちょうど目の前にあった。
「……ありますが――」
「どうした」
「これには作り方が書かれておりません」
 それの事か、と言いたげに魏延は笑った。
「陛下から賜った時から書かれておらん。作り方自体は秘密だとか言って、見よう見まねで教わった」
 魏延から怒鳴り散らされながら教わらなければいけないのかと思うと、頭が痛くなってきたが、魏延が書き写しながら顔を伏せたまま、でも今はそんな暇なんて無いから全部書いてやる、と言った。
 彼が自分の顔を見ていようが、いまいが、自分の表情は軽い嫌悪の形になっていただろう。現に今、眉の間に微かに引きつれを感じている。先程の魏延の言葉は、嫌われないように振る舞うのではなく、他人がどんな反応をしようが自分の芯を変化させない意思があったからこそ言えたのだと思う。当たり前過ぎる事だが、丁は少しの嫌悪した事を申し訳なく思った。
 書き写すのにどれくらいの時間がかかるのか解らなかったから、丁は地図でも眺めて待
つことにした。机の上の、先程魏延が引っかき回さなかった片隅にある、現在布陣している地域の地図に、魏延の配下や魏延自身が見聞きして回った詳細な情報が書き加えられていた。日々変化する状況を把握しようと、大きな地図に小さな文や記号が詰め込める限りに書かれていた。
 地図の中で一カ所、目に止まるところがあった。魏軍の勢力圏に近いところにある幅の狭い断崖だ。
 注意書きを読むと、人間がこの断崖を自力で越えるのはまず無理だし、魏軍の縄張りに近いから橋を架けることも難しそうだが、騎馬で助走を付けてなら飛び越えられそうだと思えた。ここを使えれば、魏軍に不意打ちをかけやすくなるだろう事は、何となく察しがついた。
 けれども魏延達の判断での優先順位は低いと見えて、地理の情報と、この先に魏軍の小さな見張り台がある事しか書かれていなかった。
「ここの断崖は、私の部隊なら行けると思います」
 魏延が身を乗り出して地図を見に来た。
「許可しない」
 丁の指先を見るなり、即座に切り捨てた。
「なぜですか」
「馬岱に、貴様の部隊を丁寧に扱うと言ったからだ。危険な真似はさせてやれない。それに、そこは斥候で五騎より少ない編成でないと帰って来られない所で、魏軍の縄張りでもあるし、輪を掛けて危険だ」
「将軍らしくないお言葉です」
 一瞬、魏延の表情がひくついた。この野郎、とでも言いたげである。
「……らしくなくても良い」
「敵に打撃を与えられても?」
「……ここから魏軍に与えられる損害は小さな物だ。嫌がらせにもならない」
「いえ、これはどう考えても、この先にある何かを守るための見張り台でしょう。それに、これほどの高さがあれば、我が軍の一部が見通せます」
 魏延がはっきりと舌を打った。
「我々の、涼州から付き従ってきた部下の一部があれば、この辺りを撹乱できます。中原生まれの兵馬と、我々の将兵は異なります。素地と環境の違いです」
 魏延は応えなかった。机に視線を落としたまま頭を抱えていた。書き写していた膏薬の作り方も途中で止まっている。
 そうやって時間が過ぎた。
「……何で貴様らは、一々、俺の思ったとおりに動いてくれんのだろうな……」
 溜息が聞こえてややあって、呆れ果てたように呟かれた。
 魏延が顔を上げて丁の顔を見上げた。蝋燭の明かりを受けて、枇杷の実のような色に光る瞳が、猛獣のように丁を見ていた。
 射竦められるとはこの事を言うのだろう。負けたことになるから目を逸らせてはいけないという気持ちと、今すぐ顔を背けて魏延の眼光から逃れたい気持ちが競り合っている。けれども、それらを押さえつけるように、目が合った一瞬に感じた魏延への恐怖が体を支配していた。
「貴様の要求は飲んでやる。だがな、ここからは俺の言うことを聞け」
 膏薬の書き写しを中断して、新しい、大きめの皮紙を引っ張り出して、大雑把な図を描き始めた。
「近々、魏軍の輸送部隊がここを通るらしい。それを叩け」
 あらかた図を書き終えた後は、要所毎の距離と注意事項を書いていく。
「ここに大きな黒っぽい岩がある。ここから先には行くな。結構大きい岩だから、そうそう除けられる物ではないと思う」
 そう言って指した辺りは、断崖からあまり離れていない場所だった。
「こんな所からでは何も出来ません」
「敵地だから踏み込むな。この位浅くても、矢を射掛けるとか、物見に立つ奴捕まえて来るとか出来るだろう」
 魏延が、黙って言うことを聞けと言いたげに低い声で言った。わがままな人だと言う感想が再び頭をもたげた。
「行くな。良いか。命令だ」
 無理矢理な事を仰る、と言いたくなったが仕方なくはい、と言おうとしたところ、魏延に胸倉を捕まれて引き寄せられていた。獰猛な光を放つ瞳がこぶし一つ分程離れたところから丁を睨み付けていて、その眼光は危険だと告げるように、背筋の下の方から実体のないな感覚がのぼってきた。息の調子が乱れた。
「貴様、大事なご主人独りにするつもりか」
 その言葉でやっと、魏延が渋る理由に気づけた。
 戦功も戦に勝つ事も大切だ。けれども今の魏延には小さな味方一人に自分の事を信用して貰う方が重要なのだと。けれども、出来ることなら最後まで人の話を聞いてくれるならもう少し良い評価をするのにと、思わずにはいられなかった。


 原隊と分かれた時には南にあった太陽は、西へ移動しながらその高さと輝きを徐々に落としていった。
 昼前から魏延の率いる原隊が離れた平原で魏軍とぶつかり合っていて、その土煙と地響きが遠く離れていても聞こえた。出撃前も出撃してからも、再三再四様子見に留めておくようにと魏延から釘を刺されまくった。言われなくても、そうするつもりだ。自分が帰還しなかったら、誰が馬岱を守るというのだ。けれどもそう思う一方で、馬岱が鞭打たれてしまい、戦果を全く上げられない自分の部隊が魏延の配下達から良く思われていないのに腹が立つのもまた、事実だ。そいつらの鼻をあかしてやれないかと思っていたところで、あの地図を見た。これを利用しない手はない。
 涼州時代から付き従った部下数人を率いて注意深く木立の間を進み、件の断崖に辿り着いた。馬に噛ませた枚を捨て、身振りで自分に続けと指示を出した。魏延の言った目印との距離は、大体見当が付いている。結構浅い場所だと思うが、多分何かしらの妨害くらいは出来るだろう。
 断崖を越え、狭い足場を駆け抜けて、背後の部下達が続いているか確認しようとして振り返った視界に、崖の上から弓を構える数人の兵士が見えた。
 手綱を握りしめた指が、急に冷めていくのが解った。
 魏延が書き取った地図と、目の前の風景を確かめた。
 魏延が目印だと言った岩は、どこにもなかった。
 慌てて首を巡らせると、後方の崖の下に、それらしき物がちらりと見えた。
 謀られた、いや、そうではない。魏軍が道を整備したか、見張り台を作る為に邪魔だったから除いたか――今となってはそんな事はどうでも良かった。魏延も斥候も知る事が出来ないほどの短期間の間に、状況は変わっていたのだ。
「帰れ! 急げ!」
 配下には短く、そう指示する事しかできなかった。
 矢が空を切る音、弓鳴り、すぐ脇をかすめる魏兵の放った矢。すぐ前を行く兵の首筋に刺さった矢がびぃんとしなるのがはっきり見えて、その兵は馬から落ちた。馬が棒立ちになる、振り落とされまいと手綱を捌く。配下の一人が断崖を飛び越えたのが見えた。
 肩に、背中に痛みが走った。手綱を掴めず、鞍から滑り落ちた。
 主人を独りにするつもりかという魏延の、怒気を含んだ声が脳裏に響いた。その通りになってしまった。
 戻った一人が原隊の魏延にこの事を報告してくれるだろうが、それが何になるのか。そら見たことか、あいつは血気に逸ったと魏延に嘲笑われるだけだ。
 そして自分はただ明らかに、帰る事が出来ないと、解っただけだ。








あとがき

前書きに書いたとおり、前作で説明不足だった、「丁の魏延に対する評価の変わったきっかけ小説」です。
終わり方が何ともすっきりしない感じになりましたが、個人的には「三」自体そういう雰囲気なので、こういう終わり方にしかならなかったというか…。
でも、普段は出来るだけすっきりした読み味になるように心がけているので、そうじゃないのも書いてみようと思った…というのもあります。だってほら、いつも好き合っているというのもね。
SR魏延を「多分感情表現がストレートな奴」という前提で書き出すと、書いている間振り回されて結構疲れます。

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