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なば
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絵を書いたり文を書いたり時々写真を撮ったり。
コーヒーとペンギンと飛行機が好き。
twitter=nabacco

三国志大戦関係
メインデッキは野戦桃独尊、独尊ワラ。君主名はなばーる。
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航空関係のプロジェクトXな話が好物です。

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宇宙葬

注意書き

■一つ言う。な ば は 速 筆 で は な い。
この間うpした話を書き上げてこれを書いたわけではない。


■相棒の「キミ」が秘密の宇宙葬を望むので、「ボク」がべそかきながら全力で応えるだけの話です。
■解る方には何のパロディか解る内容なんですけどね!



「つづきはこちら」からどうぞ。

 キミは「誰の手も届かない所へ、誰も知らない所へ、俺だった残骸を捨ててくれ」と、ボクに言った。
 ボクは「ボクも知らないし、行けない所でないと絶対駄目?」と訊いた。だってそれはあまりにも悲し過ぎる事だから。つまりキミはこの先永遠に独りぼっちって事じゃないか。でもキミはそんな事なんてどうでも良いみたいに、こう答えた。「残念だがそうしてくれ。俺は消えなければならない。俺達はもう、この世には要らないんだ」。
 そこからはいつもの相談事みたいに互いに提案を出し合って、一番良い方法を探し出す流れになっていた。今思うと、もうその時には癖になっちゃっていて、それがただの会話なのか、会議なのかなんて区別は出来なくなっていたんだと思う。だから「会話」から「会議」になった事に気が付かなかったんだ。ボクは馬鹿だった。いつだってそうだ。気付いたときには何もかもが遅すぎる。そうしていつも大切な事が、届いたと思ったほんの指先から光の様に逃げていくんだ。でもあの時のボクにとってキミと話す内容は、会議でも会話でも構わなかった。キミが笑っているのを見られていればそれだけで幸せだったから。
 海がいい?
 駄目だ、海底まで沈む保障はない。いつかどこかに流れ着く。
 地下。
 お前が場所を知っている。
 じゃあ、山の中も駄目だね。
 そうだな。
 空なんてどう?
 キミは笑うのを止めた。
 それがいい。出来るなら、宇宙まで吹っ飛ばしてくれないか?
 そして、真剣な眼差しでボクをしっかりと見据えてこう言った。
 お前なら出来るだろう?
 ボクは狙撃手に額を撃ち貫かれたような気分になった。そうだ。ボクは出来る。出来てしまう。それだけの知識と技術とコネクションがある。ボクはそんな事の為に自分の力を使う筈じゃないんだと、ずっと、ずっと言い聞かせてきたのに。キミもキミだよ。どうして締めくくりをボクに頼んじゃうかな。
 でもキミが、世界で一番信用できるのはボクだけだと言ってくれたから、誠心誠意やろうって決めた。最後の約束だ。絶対に破らないよ。
 だからボクはこう言ったんだ。「ボクを誰だと思っているんだい?」。


 ボクのいつかの冗談は今、こうして現実の物になっている。
 シミュレーションを重ねて、耐熱耐震・軌道自動補正の頭脳を積んだ円筒形の棺を作った。それはアルミのボディに固体火薬を詰めたおもちゃみたいなロケットだ。でもこれを拡大して構造や軌道を考え直せばミサイルになる。
 第二次世界大戦終結後、空を飛ぶ事を禁じられた日本人は空撮写真と見紛う絶景を電波塔のてっぺんから撮ってみせた。そして、ボールペン位の大きさのロケットを水平に飛ばして宇宙への一歩を踏み出した。最初の人工衛星を、余計な機器を積むことなく放物線軌道だけで宇宙に「投げ込んだ」。
 海風が強いこの島で機械の補正に頼らない真似は出来ないけれど、ボクはそのロケットの真似をさせて貰った。液体ロケットはエンジンから作らなければいけないけれど固体ロケットはそんな事をしなくて良い。高熱に耐える胴体とよく燃える火薬と激しくぶれる機体を制御する頭脳を組み合わせて、乗客を乗せれば宇宙に行ける。
 色々と面倒くさい前準備や取り決めがある人工衛星と違って、打ち上げに厳格な時間区切りも無い。いつでもキミを宇宙に送り出せる。それが、悔しい。
 最後の最後の、総仕上げの時間だ。
 ロケットの各部品のチェックをして、最後にてっぺんにキミを乗せた。あれだけ大きかったキミはボクの両腕でぎゅっと抱きしめられる程小さくなってしまった。
 そして扉を閉じた。
 最後のボルト群をがっちりと、手が痛くなって息が上がるまで締め上げた。総仕上げに、ボクの腕力以上の仕事をしてくれる電動のレンチで締め上げる。
 雨が降ってくれればよかったのに。そうすればもう少し長くキミといられたのに。どうして、こんな気候のこんな島でスコールも何も降ってくれないんだ。そしてどうして、ケネディ宇宙センターみたいに仰々しい設備が無くてもロケットを飛ばせる時代になってしまったんだ。
 ロケットから随分離れた所に置いた管制用パソコンの前に立った。発射台からここまで、夕陽を受けてぎらぎらの金色に光るロケットをずっと見たまま、後ろ歩きでのろのろと歩いた。ボクはキミと同じ地面を踏んでいるという事にまだ拘りたかったんだ。けれども、頼まれた仕事は遂行しなきゃいけない。最後に、超音波検査でロケットにシミュレーションで叩き出した数値に間違いないか、計算上の狂いがないか調べる作業を始めた。
 パソコンのエンターキーを叩く。
 発射台の横でスタンバイしていたロボットがじっくりとロケットの異常を探す。それが何事もなく終わったらカウントダウン・メインエンジン点火・軌道の管制をコンピュータが、ボクの分身の頭脳が勝手にやってくれる。
 華々しい気持ちで見送れないなんて、それはなんて悲しいロケットだろう。地球上で一番祝福されないロケットだ。ミサイルだって、頑張れ、命中しろ、やっつけろ、って激励を受けて飛んでいくのに。ロケットはちゃんと任務を仰せつかって飛んでいくだけなのに、作ったボクはそれを祝ってあげる気持ちになれないなんて。
 ボクの目の前のモニタが色々な情報を教えてくれる。異常なし。異常なし。All Green。
 そして三百秒に設定したカウントダウンが始まる。


三、二、一
点火
離床
カウントアップ
一、二、三、……


さようなら


 轟音と爆炎が地上を支配したのは束の間だった。ロケットは大気圏を目指して飛んでいった。ボクはロケット雲を見送らなかった。搭載カメラが送ってくれた映像も見なかった。
 本当の事を言うと、見られなかった。
 ただただ、本当にキミと別れなければいけない事が悲しくて、悔しくて、地球を見ながらぼろぼろと泣いていた。
 キミと居た時間が愛おしすぎて、これから先の長い空白が恐ろしすぎてたまらないんだ。怖いんだ。これからボクは何をして生きていくのか決まっているんだけど、その一歩をキミ無しに踏み出すのが怖い。
 キミはボクの理想だった。勇気だった。憬れだった。愛だった。世界だった。ボクじゃないボクだった。
 ボクはただしゃくりあげて、キミの名前を呼び続けて泣いた。それ以外の言葉を忘れたみたいだった。それしか口から出て来なかった。
 ボクらの戦友が花嫁と花婿になった島で。装甲車いっぱいに積まれた白い薔薇が鳩に変じて夕焼け空に消えた島で。
 ボクはキミと永遠に別れた。

 

 

■参考資料
『ライカの帰還』
『はやぶさ 不死身の探査機と宇宙研の物語』
「電波塔のてっぺんから航空写真」「戦後日本のロケットの話」「ロケット打ち上げ」の部分で参考にしました。
■解る人には解りますよね……。メタルギアソリッド4の後日談で、オタコンがソリッドの葬式をする話です。
■ロケットをミサイルに、人工衛星を核弾頭に。技術転用は第一次世界大戦からの科学分野での課題だと思うのと個人的に好きなテーマなので、ちょくちょく被る表現が出てくる恐れがありますが、もっと多方面に勉強して色々な表現が出来るように心がけたいと思います。
■「僕」ではなく「ボク」なのは、まあ、いずれ。うん。
■本当はちゃんと軌道に乗った事を表現したくて何か電波発する様にしたかったんですが、これとは別件で調べてたら、人工衛星打ち上げ前に世界中の電波の監視をしている団体に「人工衛星打ち上げますから、宇宙からこんな電波が降ってきます」という届け出をしなきゃいけないんで無しにしました。長くなるしね。
■電動レンチて実在するのか解りませんが、出しました。すいません。

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