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読書・ふらりとどこかに行く
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絵を書いたり文を書いたり時々写真を撮ったり。
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メインデッキは野戦桃独尊、独尊ワラ。君主名はなばーる。
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白雷電が大好きです。以上。
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The Dawn 後

注意書き

■MGS2からMGS4の間(「MGSR」はそうなる筈、と思っていた時期)をイメージしました。
■高周波ブレードについての独自解釈、作者の妄想勝手な「愛国者達」の架空下部組織が出てきます。
■雷電本人と、回想のローズ、サニー、ソリッド・スネークに該当する人物以外は皆、書いた奴の創作です。

それでも良いよって方、「つづきはこちら」からどうぞ


こちらは後編です。前編はこちらから

 今回の演習はフラッグ戦だった。演習場内に隠された旗を七十二時間かけて奪い合う。旗は「目標物・要救助者」等に見立てられる。既に誰かが持っている旗を救助するも良いし、守る為なら何をしても良い。旗の場所は演習スタートと同時に配信されるマップに大雑把に示される。そして七十二時間経過して旗を一定数持っていない者・行動不能になった者は失格と見なされる。
 狭いアパート群が立ち並ぶ場所をスタート地点に指定された。演習開始のカウントダウンがゼロになるのと同時に高機動という特性を生かし、ステルスシートを被って可能な限り素速く行動した。アパートの中とそこから離れた喫茶店にある旗の二つを取った。
 次に近い旗のある場所は、元々は個人商店の倉庫と思われる場所だった。
 古いコンピュータ類の放置された小さな事務所の横に、鉄骨造りの倉庫がある。地上からの出入口は人間が通れる程の大きさのドアの跡しかない。それ以外にはトタン屋根に空いた穴位だ。穴からの侵入を決めた。
 埃の舞う倉庫の中にはプラスチックのコンテナが幾つも放置されていた。これでは弾よけにも何もならない。コンテナ伝いに中腰で動き、コンテナと床の間に隠された旗を見付けて回収した。
 こんな狭い所からはすぐに逃げてしまおうと思ったが、倉庫に別な被検体のチームが侵入してきた。こちらは全く電波も音も発さない様に様子を探った。足音からして三人一組のチームの様だった。
 チームが倉庫の隅々を探してから出て行くだろう事は想像に難くなかった。天井も地上も、どちらに逃げようが変わりがないというのも明白だった。そして、見付けられたら殺される。
 だったら先に殺してしまおう。
 コンテナの陰から一気に跳躍しながら抜刀。黒い刀身が初めて現れる。光を反射しない刀身には特殊な溝のネジが付いていた。この素材は何だと思うがそんな事より、目の前のチームを殲滅しなければ。
 チームが自分に三つの銃口を向けている。サブマシンガンの掃射が襲いかかってきた。腕が勝手に動いて刀身で全ての弾道を逸らせた。自分自身の挙動に驚いたが、相手はもっと驚いているだろう。マグチェンジの隙を逃さずに、今度は自分の意思で手近な奴の手首を斬りながら着地。次いで踏み込んで、頭。
 強化外骨格の、未知の物質とナノ構造で作られた筈の装甲が紙の様に斬れた。装甲の隙間、関節、次々とソフトが相手の弱点を探し出し、銃口を向けようとする次の動きを予想し、網膜に映す。死角はない。電波と音響を探知するセンサーを備えて後ろも睨んでいる。
 背後の二人が挑み掛かってくるのを、横に跳躍して逃げた。そのまま方向転換して踏み込み、自分の速さに追いつけないで居る手前の胴を腰から肩に掛けて斬り上げた。更に一歩近付いて奥の頸椎を突いた。
 黒い血が被検体達から流れ出す。赤い血が内臓と混ぜられて汚れたのではなく、血液の酸素運搬機能を高めようとした人工血液だろう。
――すげぇな、これ……。
 センサー類でモニタリングしている強化外骨格班長の声が届いた。画面酔いした、という声をマイクが拾った。
「何が」
――いや、外骨格の性能は予想済みで、センサー類の調整も完璧なのは知ってたけど、ブレードだ。ここまでとは思わなかった。
「Cは?」
――ここには居ない。あんたに弾かれた指を診せに医務室にでも居るんじゃないか。帰ったら一応、あんな奴だけど謝った方が良いぞ。
 班長の声がしなくなる。Cの発想の方が正しかったのだから、Cに謝るべきなのはあんたも同じだと言いたかったが止めておいた。
 チームを組んだ被検体達が持っていた旗を奪った。旗の合計から行けば失格にならない条件はクリアできている。
「班長」
――見た。後は……、あまりあんたに壊れて欲しくないから可能な限り隠れてステルスシートと特殊弾丸の威力を試すだけで良い。
 次は狙撃の指示だと理解した。
 隣の区画にはビル街がある。手近なビルの屋上まで行き、眼下を見下ろして狙撃銃を構えた。観測手無しだが、天気が良いから、可視光や赤外線だけで充分だろうと思った。こちらからレーダーを発さず黙り続けるという方針に変わりはない。
 バディを組んで行動している被検体を見付け、前を行く方の眼を撃った。いきなり前衛が倒れたのに驚いた後続が、それでもすぐさま前衛を担いで物陰に引っ込んだ。前衛が旗やメインの装備を持っていたのだろう。
 一人で物陰伝いに動く者も居た。そいつは一瞬こちらを向いた隙に口許を撃った。顎から上をなくしてそれは倒れた。
――急所って言うか、隙間ばかり狙うなよ。装甲部分をちゃんと撃て。
 弾頭開発者の声だった。強化外骨格の装甲を撃ち抜けるというのが謳い文句なんだから、とむくれて言う。
 電波で様子を探る被検体が居る。総チャンネル受信状態の電波の感覚には相当「うるさく」感じる程だった。しきりにレーダーで周囲を探り、本部と連絡を取る「喚き屋」だった。よく電波で騒ぐから被検体も開発班達も皆で「イェール」や「ベビー」と呼んでいる。
 いつも演習に何体か投入されるが、生き残るのは殆ど居ない。どこの班が作っているのかは強化外骨格班も開発班も知らないが、そこの班長は余程運が良いかプレゼンか脅しが上手いかのどれかだろう。
「撃つのは、イェールでも良いか?」
――出来ればまともな奴を狙って欲しいがそうも言ってられんな。胸部を狙え。
 通信を拾ったらしいイェールがこちらを振り向いて、電波で眼を凝らし始めた。そのずっと前から狙われていた事など気付かなかった様だった。
 正対していたイェールの胸部が弾け、倒れた。
――上出来だ。その調子! でも次はイェールじゃないのを頼む!
 演習開始から十二時間が過ぎ、日が暮れ始めた。その間ずっとビルの屋上から動かずに下界を眺めて、目に付く被検体を撃ち続けた。装甲を貫けた物もあれば、貫けずにやむなく二発目を頭部に撃ち込む事もあった。
――君、動かなさ過ぎ……。
 ステルスシートの担当者の声だった。
――恐ろしく動かないね。でも、他にもシートを渡しているのも居るからそっちで我慢するよ。
 担当者は不満たらたらと言った様子だった。ステルスシートをマントの様になびかせて飛び回る様を頭で思い描いてくれていたらしい。
 確かに動かずにいるのも宜しくない。これから夜になる。屋上は吹きさらしだから当然冷えるだろう。強化外骨格にどんな影響があるのか解らないから、劣化するような事はなるべく避けたい。
 残弾数を確認する。狙撃銃のスリングを肩に掛け、左腰に提げたブレードの存在を確認する。シートを被ったままそろそろと立ち上がり、安心して休息できる場所を探そうと思った。地下か、入り組んだ路地の奥か。単独行動だと見張りが居ないという不安が強くなる。夜間はステルスシートが手放せないだろう。
 ビルの中に誰も居ないのを音響で確認し、そっと階段を下り始めた時にCからの通信が一方的に入った。その後チャンネルを合わせてもC本人は出なかった。
――ライデン、E6にある公園のトイレに演習終了六時間前に来てくれ。


 それから四時間おきに、Cからの短いメッセージが繰り返された。初日の倉庫の様な状況でメッセージを受信した時には、腹が立った。暢気な事言うなと怒鳴りたかったがそれも叶わないので、襲ってきたチームを全滅させた。録音されたメッセージは鬱陶しかったが、C自身がマイクを握れず、やむを得ず何かをしているからこんな行動を取っているのかも知れないと思うしかなかった。一体何を考えているのだろう。
 E6区画は演習場の一番奥だ。旗には得点があるが、高得点の物は大抵ここに隠されている。郊外の町並みが含まれる区画で、ショッピングモールとごく普通の住宅の並ぶ場所だから探すのは相当に手間が掛かるので、チーム構成でもされていない限り大体誰も取りに来ない。
 中流層の住む様な家々が並んでいる。この区画は本部などから遠すぎて、中々被検体達の破壊が及ばないようだったが、それでも雨風は容赦なく壁を削ぎ、窓を割り、床を腐らせていた。地図によれば公園はこの辺りだ。
 区画の端に公園はあった。ブランコの支柱は真ん中で折られ、ジャングルジムはひしゃげて、滑り台に至っては圧延されていた。トイレから見て身を隠すのに最適な場所は奔放に枝を伸ばした生け垣だけだった。
 生命反応がある。規則正しい呼吸音と拍動。生身の人間が演習場に紛れ込んでいる。いや、囮か、と思いながらもそれを確認しに行く。
 指定されたトイレに居たのはただの人間だった。誰かがダウンジャケットを着込んで丸くなって寝ていた。と、思ったら目覚ましのベルにびくりとして、もぞもぞと動いた。起き上がり、腕時計を確認している。その次に被検体達の位置を示すレーダーを取り出してスイッチを入れる。
 電波からは逃げられないから諦めた。電波が体の表面を舐め、サインを拾ってレーダーに戻っていった。
「……ライデン……」
 呟いた声はCだった。君なら聞こえるだろう、と言うような小さな声だった。
「口に出来ない言葉がある。ジェスチャーもハンドサインもモールスも使えない話がある」
 レーダーの画面を見つめたまま呟いている。
「つまり、内緒話がしたい」
 本部から割り込んでくる無線は無い。現時刻は2355。演習最終日の残り六時間にもなると大体の性能や問題点が解ってきてモニタリングルームで終始人間がたむろする事は少なくなる。最初の演習戦では最終日に話し掛けても誰も返事を寄越さなかったから、見捨てられたのかと勘違いして絶望した程だった。そして、今回のルールがフラッグ戦だった為、生き残って一定数旗を持っている被検体は無視し合うようにとこっそり通達されている。そしてこの区画に被検体は居ない。更に余程高性能な集音マイクを搭載していない限り、ささやき声程の大きさの音声は隣の区画からは聞こえない。
 今のこの会話は完全に二人だけの物だ。
「私を、もう一度だけ信じてくれるかな。もう一度だけで良い。この『一度』が君にとって命取りになるのか、他の可能性を示しているのかは君の判断に委ねるよ」
 そしてレーダーのスイッチを切り、傍らに置いてあるリュックサックに仕舞った。ジャケットの中に体を押し込んで寒さに耐えている。観察している内に、面白くなさそうな顔で旗を取り出した。最高得点の色の旗だった。
 指の状態はどうなんだろう、と少し気になった。ただ言動が気に入らなかったというだけであんなに強く弾く必要も無かった筈だ。大人気なかったし、強化外骨格班にも余計に警戒された。
 信じる信じない以前の問題だ。跳躍し、トイレの屋根に静かに飛び乗った。寒がっているので精一杯のCには気付かれてないようだった。イヤーマフラーもしているし、ジャケットのフードを被っている。細かい音に注意を払う気配が全くない。そこからCの目の前に着地する。
 Cの表情が驚きから子供の様な無垢な憧憬になり、ニンジャみたいで格好良いね、と言った。
「Z軸の感覚があるのが羨ましいな。……ライデン、私を一応信じてくれるんだね。それじゃあ、ちょっと失礼」
 Cが立ち上がりながら旗を捨てた。ブレードを持っている。それをゆっくりとした動作で抜く。刃渡りは自分のブレードの半分位。それでも何となく不吉な気配を短いブレードから感じた。一瞬身構えるが、斬れない峰の部分が向けられているのと、何の殺気も感じない手つきと刃に、Cを信じる事にした。ブレードが人間で言うおとがいの辺りにかざされ、そこを軽く叩かれた。電波の絶叫が聴覚と脳を駆け抜けた。超音波に似た酷い耳鳴りが頭に響く。その外からCの声で無線類を壊させてもらった、これで本部とは連絡が取れなくなると聞こえてきた。
「これで何のレーダーにも君は映らない。……じゃあ、行こう」
 一方の手には懐中電灯。夜目の利かない生身の人間らしい持ち物だった。電波の感覚は消された物の、視覚は赤外線や紫外線を感知していた。Cが手招き、背中を見せて走り出した。何の意図かは判らない。
「君に渡したブレードは圧電型で、私のは磁歪型。君のはバッテリーの問題さえクリアできれば配線をいじって刃から相手に電流を流して殺す事も出来るようになる。私のは君のよりも少し作りが複雑だから途中で壊れちゃ困るし、実戦投入は諦めた。それに、磁気で君が狂っても困る。今のは良い例だね。ついでながら、オン・オフは握りの強さだ」
「……C。指の事は……済まなかった。大人気ない真似をした」
 ふらつきながら追い付くと早口でCが講釈し、またこっち、と指差して走り出した。ジャケットの下のシャツ、ジーンズに登山靴、リュックサックといういでたちは着の身着のまま逃げてきた難民の様に見えた。
「良いよ、気にしてない」
 走りながらCが返事をくれた。
「気にしないわけがないだろう。それにO班に警戒された」
 Cが笑って、傑作だ、フランケンシュタイン・コンプレックスだねと言い捨てた。
「ところで、あんたは無線は持ってないのか」
「貰ったけど捨てた。それに、被検体と生身は反応が違うから解る。無視して貰える。過去、仲が悪かった研究者を殺した被検体が居たらしいけれどそいつはえげつないやり方で処分されたから、普段からお行儀の悪い要注意被検体にはそういうVTRを見せるし、研究者側も注意してる」
 だからすれ違う皆見逃してくれたんだよね、と続ける。何の意図があるかは解らないが、「信じた」以上は付いて行くしかなかった。
 Cの従うままに走り、ショッピングモールの広場に着いた。壁は所々大穴が開いている。どこまで行くつもりだと訊こうとしたら、息の上がったCがブレードで地面を斬れと指示した。チョークを取り出し、こんな感じに、と地面に一辺が一メートル程の三角形を描く。訝りながらその通りにブレードを振ると、あっけなく切れたが何も変化はない。Cが頂点を切り角を落として、この上で精一杯跳ねろと言うのでそうする。数回の跳躍の後、脚に掛かる反発力が少ないと思っていたら床が崩れ始めた。
 重々しい音と砂埃を立てて三角形の穴が空いた。切断面はナイフで切られたバターの様だった。
「……俺でなかったら失敗しているぞ」
「君だからこそ頼んだんだ。この三日間の君の活躍は見ていたよ、ライデン。充分だ。今の技術では長時間抜刀状態にしておけないのが残念だけど……」
 リュックから水筒を取り出しそれを煽って嘔吐き、不味いと言いながらCはむせた。飲んだのは濃いコーヒーだったようだ。これ、あげると言いながらCが防磁ケースに入ったカードをくれた。どこかの銀行のキャッシュカードだった。
「私の給料がその口座に入っている。微々たる額だけど多分すぐ凍結されるだろうからさっさと下ろしきってくれ。パスワードは裏に書いてある」
 促されるがままにカードの裏を見ると「26eze0k0」と書いた付箋が貼り付けてあった。ついで、背負っていたリュックサックを渡されながら、中身はガスマスクと小さい酸素ボンベと当面の君の食事とブレードの充電コードだ、と続ける。
「……何がしたい」
「君にしかお願いできない事だ。私の頭を刻んで欲しい。そして、君には逃げて欲しい」
「どういう冗談だ。いや、と言うかそもそも、なんであんたが演習場に居るんだ」
「冗談じゃないし、開発班の中には被検体がどう活躍するのか生で拝みたい奴も居るよ。珍しい話じゃない。本題、私を殺せ」
 Cがまたコーヒーを一気飲みした。エスプレッソはきついとぼやく。
「……馬鹿な真似は止そう」
「本気だ。とてもメリットのある行為だ」
「何で俺にまでメリットがあるって言うんだ。さっき自分でも被検体の研究者殺しは厳禁だって言ったくせに。民間人を殺すような物だ。それに死ぬなんて、未来も何もないじゃないか」
「私の可能性も未来も君に全部渡した」
「誰がこのブレードを作った? あんたはこれをもっと良くしたいとか思わないのか」
「データと今まで見た実戦から行けばもう、本当にもう、充分だ。ただ残念なのは、今の技術の限界だ。頼むよ」
 首を振る。嫌だ、と意思表示をする。あの渾名が過去から追い縋ってくる。
「あのさ、体の構成物が強化外骨格と人工血液になったとは言え、君が今まで殺したのは人間だ。そいつ等が斬れて私を斬れないなんて何の冗談?」
 憮然として言うCの問いに答えられなかった。過去に背を向け続けていた様に、ここでも自分は気持ちの逃げ道を探し、屁理屈をこねていたのだ。ここで殺していたのは「被検体」だと、VR訓練と違ってリアルでどことなく人間と違うだけだと、そう思っていた。
「C……俺はやっぱり、逃げてたんだ」
「辛過ぎて生き難いならその物事から逃げるのも手だと、私は思うよ。責任も何もかも投げ捨てて良いよ。世界は広い。どこかに自分を受け入れてくれる場所はある。もっとも、逃げられる力があればの話だ」
 力が無い事。つまり、子供が親を選べない様に、金の無い人間が病から救われない様に、知恵の無い囚人が脱獄できない様に、行政の仕組みを知らない人間が路頭に迷う様に。
「違う。そんな話じゃない。……殺しを正当化する理由なんて、屁理屈なんて幾らでも揃えられる……」
 そうだね、じゃあ私の持論だが、とCが強く言った。
「命自体に価値なんて無い。そいつがどういうメモリーを持っているか、そしてどんなレスポンスを寄越してくれるか、誰とリンクしているかで価値が決まるんだ。それが見せかけの命の価値だ」
 辛辣でCらしい言葉だと思った。
「そしてもう、私には上が望む物を出力するだけの猶予も力もない。出力しきったからね。以前、超音波メスを大型化して工業用に転用できないか別な所で研究してて、結局首を切られた。で、何の因果かどこで聞きつけたかここに連れて来られたんだ。……ここは他の研究所とは随分違う」
 設備のレベル云々じゃない、と声を落として言う。でもその設備があったからこのブレードは完成し得た。刃は図抜けた、オーバーテクノロジーと言っても過言ではない、ナノサイズ工作機器が無かったら完成できなかった、とCが怖がる様に言った。最初は未知の工具や開発レベルの高さにタイムスリップか宇宙人の世界に紛れ込んだ様な気分で浮かれていたけれど、なぜこれらがこの囲いの中に留まっているのかの理由を考えると恐ろしくなった。
「城を造ったら建設に関係した大工を皆殺しにして、弱点の漏洩を防いでいたっていう話がある。それと同じ事がここで行われる。君も気付いてるだろうけれど、ここには三種類の人間が居る。生え抜きの研究者と、外部から来た私みたいな奴と、君ら。で、ここで人間として本当に認められているのは生え抜きのだけ。外部の奴は良い成果を残したら開発データと実物だけしか用がないから処分する。技術漏洩を防ぐ為にね。イェールの一部は私達の行き着く先だ。イェールの中身は人為的に記憶喪失させられた上に様々な記憶を入力させられた者達だよ。別な所ではモールド・スネークと呼んでるらしい。鋳造、だってさ」
 そんなにしてまでスネークとやらが欲しいかな、とCは言う。Cの言う通りかも知れない。バージョンアップが進んでより高性能なイェールが出来たとしても、兵士としての性能の高さという上っ面をなぞっただけで、彼ではないと思う。伝説の用兵ごっこを誰もが出来る。「彼」の無い、「彼自身」ではない「スネーク」なんて、形骸化した型式名だけのスネークだ。
「所で、ライデンはスネーク本人に会った事があるんだよね? どんな人だった?」
 何で知っているんだと訊くと、資料にソリッド・スネークと接触したと書いてあったからと返ってきた。Cとの会話の端々には資料という単語が出てくるが、どんな事が書かれているのだろうと気になった。
「会ったって言える程、話もしてないけどな。……責任感があって意志が強くて、迷いが無くて、堂々としていた。俺とは全く違うから、憧れていた」
 今、彼はどこで何をしているのだろうと思う。
「そりゃ一度会ってみたいな。私みたいな偏屈者でも人生が変わりそうだ。……で、成果が出せない君の班長だけど、内部の人間だから相当大目に見て貰える。で、私は過去数度ブレードを演習に採用して貰ったけれど、ちっとも使って貰えない場合が多かったから、演習の使用例は無いけれど、本当ならこんな事が出来る筈ってVTRと数値を作って上を納得させて首を繋げてた。そして君らに至っては、人間として見てるかどうかすら疑わしい」
 私もここでは人間じゃないと、暗に言っている。
「……何であんたは、人間が三種類居るって気付いたんだ」
「二年もこんな所に燻っていたらある程度の事は見えてくる。けど、今話したのが全部当たっているとは限らない。裏は取っていないからね。今回のブレードを作るのにナノマシンの技術と知識が必要だったから貸して貰おうとしたら、あいつ等は部外者はナノマシンには手を付けるなと言った。部外者って言い方に違和感を感じたんだ。後で尾行て行ったら、私を部外者呼ばわりしていた奴は後で注意を受けていたよ。エリートのナノ班にもヒューマン・エラーはあるんだなーて思った、そして私が半分研究者扱いされていないことも解った。で、あいつ等私のブレードの研究を奪おうとしたから抗議したんだ。いや、脅した方に近いかな。プレゼンだって言って、パソコンをブレードで切り刻んで、参考資料の山の研究室のスプリンクラーを壊してスプレーとライターで火を点けた。その上で、バックアップは私の頭しかないと言ったら折れてくれたよ。その後何度も妨害も横取りもされ掛けたけど、どうにか今回のブレードを作る為のデータを守れた。古いバージョンのプレゼン資料しかあいつ等の手にはない。演習開始直前にブレードを渡したのは、だらだらと改良を繰り返して延ばした振りをして完成型を見せたくなかったからだ」
 あの時は面白かったなーとぼやく。ナノ班と揉めた事かと訊き返すとCが頷く。
「ナノマシンは、ここにとって心臓と脳を一緒にした以上に重要な技術だ。世界と隔絶した技術力を保っている所以だ。それを一部の人間しか扱えない様にしている。一部っていうのがO班長みたいな奴等。でも君の扱われ方を見ている限り、班長は出世しないだろうな。自分の美意識に拘りすぎるし、班長の所為で成果を出せない他の人達が可哀想だ」
 クレイジー・チャーリーの由来が見えてきた。放火犯だ何だと好き勝手に呼ばれていたCにはCなりの理由があったのだ。
「……C。本名は?」
「何でまたいきなり?」
「俺は今まで色々な名前で呼ばれてきた。実を言うと、ライデンは好きじゃない」
「兵器だってはっきり言ってるような物だから? ジャックだってチャーリーだって、色んな意味に繋がっている。ジョンの渾名がジャックだったり、逆だったり、チャーリーだって、Cだとか間抜けだとか色んな意味がある。君が気に掛けるライデンは、たまたま半世紀前に日本人が戦闘機に付けた渾名でしかない。本当は雷と稲妻って意味らしいよ、ジャック。……クリスマスだ」
 最後にCが呟くように本名らしい言葉を吐いた。普通の人間なら聞き取れないほどの小さな声だが、強化外骨格の聴覚は吐息混じりのノイズの様な音声から「クリスマス」をしっかり聞き取った。
「それはファーストネームか? それともまた別な渾名なのか?」
「内緒だ」
 Cは、君の性能を侮っていたと言いたげな顔をした。
「クリスマス、ブレードの素材は何だ? 取説読んだら「保守材料が無くなったらシャーペンの芯を与えて下さい。Bの値が高い物が好ましいです」なんて馬鹿な事が書いてあるし」
「炭素だよ。炭素繊維をみっちり編み込んで作った。エッジは単分子構造になる様にしたかったけど、相当難しくて出来なかった。後、私はクリスマスよりはチャーリーと呼ばれたい」
「……なあ、C。現物は俺達が持っているし、さっきの穴から一緒に逃げて外で研究を続けたらどうだ」
「んー、生命倫理の問題で、病人が二人居るけど特効薬は一人分しかない、どうしたらいいでしょう、ていうのがあるけれど、私が医者だったら薬は無いと二人に嘘を吐くね。だってこの条件だけじゃどっちの病人に価値があるか解らないもの。で、その私の屁理屈から言わせて貰うと、私には君程の価値はない。逃げ切れる力がない。ガスマスクは一人分しか用意していない。その上ついて行った所で君の足手纏いになる。でも君は違う。殺しに来る奴らを返り討ちに出来るし、殺人鬼にはならない」
「C、俺は既に殺人鬼だ。もう人間じゃない。……ジャック・ザ・リッパーで白い悪魔だ」
「知ってる。資料は全部読んだ。来歴も。でも君はすすんで犯罪を犯す様な人間じゃない」
「違う!」
 そうじゃないと強く否定した。資料を読んだと繰り返し言うが、そんな上っ面だけで語って欲しくない。自分は犯罪者なんて括りには収まりきれない。怪物だ。今の自分を見て、何気なく払っただけの人間の手が弾ける様な怪我を負わせられる人型の何かを「人間」と呼べるか。O班員からは悪魔と呼ばれた。
 一息にそうまくし立てても、Cは動じなかった。
「仮に君がそれを気に病んでいるのだとしても、それが、私が君を評価する理由だ。君自身が至極まともな人間でありたいと強く願っている証拠だ。それに、指の事を謝ってくれた」
 首を横に振った。
「私だっていずれ処分される捨て駒だ。もうここでの価値はない。外に出る力もない。こう、私が観念しているのに、それでも?」
 頷くしかない。
「これは人助けだ。私は尊厳死を望んでいるんだ」
「あんたは……俺を人間扱いしてくれた。ここでこんな事をしてくれたのはあんただけだ」
 過去も全て受け入れると言って、それでも震えながら首筋から肩へと回される細い腕の事を思い出した。忘れようと背を向けた過去の一つだ。また逃げるのか、と自問する。その一方でCの言った「逃げても構わない」がある。逃げたくなかった。強くなりたいと思った。逃げなくても良い、踏ん張れるだけの強さが欲しい。
「……解ったよ。色々言った私が迂闊だった」
 答えを探して迷っていたらCの方から話を打ち切られた。深い溜息を吐いたCが懐中電灯を捨て、背を向けて歩きだした。闇の中で白い吐息が時折見える。Cの希望を潰えさせた。提案を却下した。どうしようと思った。Cの望みを叶える事は容易いし、やれない事はない。けれどももう人間を殺したくないという気持ちが激しく胸の中でのたうっていた。Cが三十メートル以上離れた所で抜刀し、左手で逆手に持つ。この辺、と確認する様に右の脇腹にかざした辺りで意図が判った。
「止めろ!」
 全てが三秒未満の事だった。Cが自分の肝臓に刃を突き立て、左手を引いた。その手に今更の様に駆け寄った強化外骨格の手のひらが被せられる。間に合わなかった。Cは強化外骨格の性能を知った上で距離を置いたのだ。それに気付かなかった自分が馬鹿だった。左手袋の中指から外側がぺたりと潰れた。刃の引きにつられる様に粘った血が糸を引き、次いで勢いよく溢れ始めた。二年は一瞬だったのに、この三秒は恐ろしく長く感じた。抱き留めた腕の中でCが崩れる。脊椎まで斬った様だ。
 包帯、輸血、Oマイナー、止血、という単語ばかりが空回りする。救護を呼ぶ手立てはない。無線を壊されている。ナノマシンが復活させようとしているかも知れないが、今すぐ使えなければ意味がない。そしてこの区画は演習場の一番奥のどん詰まりだ。
「こっちも、なかなかの斬れ味だろう?」
「馬鹿、そんな事じゃない!」
 救急セットを取り出そうとしたらその手首を峰打ちされ、強く痺れた。
「強化外骨格の救急セットは生身には使用できない。……これは、この世に一揃いで充分だ。普通の人間でも、簡単に何でも斬れる。これを管理してくれ……ライデン。私達は脳死した奴でも蘇らせられる可能性のある所に居るんだ。だからこれ位じゃ安心できない。頼む……脳を切り刻んで欲しい」
 どの道助からないし、と言いながらCがブレードを押しつけてきた。強化外骨格が忌み嫌う様に幽かにびりびりと反応している。
「頼むよ……」
 不治の病に冒された人間が、苦しみのたうって死ぬ位なら早く楽に眠りたいと願うような言い方だった。
「……気が進まないけれど、解った」
 ありがとう、とCの笑う声。上体を辛うじて両腕で支え、さあ、と促された。短いブレードを握り、目を閉じて、出鱈目に刃を振って再びそれを見た。骨と肉が混じった血だまりと肩から上のない体が倒れるところだった。鉄の、昔嗅いだ、と思ったら頭が一瞬ふらつく。ナノマシンによる追憶とトラウマの回避が実行されたのだ。気になっていた左手の手袋を外すと、包帯を巻き、人差し指と親指だけが残った手が現れた。手首には麻酔を直接打ったらしい跡が幾つかあった。こんな手になってしまったら、本当なら許してなんかくれないだろう。
 Cの死体から鞘を取り、刃を収めて眺めてみた。黒く塗装された鋼材の両面に細かく文字が削ってあった。
――誰かに聞かれると都合が悪いので面倒な形になってしまった事を先に侘びておく。ごめん。開けた穴から逃げられる。君を逃がす手引きを頼まれたんだけれど、当たり前だけど、おおっぴらに出来なかったから黙っていた。再度ごめん。地下のデータは演習前に渡した缶の中に入っている。それに、こんな所で自分のブレードが粗製濫造されるのは嫌だ。君なら使い道を誤る事はないだろう。逃げてくれ、ライデン。出口に、君を待っている人が居る。私は君の脱出の手引きと引き替えに本物の研究データを「愛国者達」に未来永劫奪われないようにする事を条件にこの仕事を引き受けた。
 表はそこで文が終わっている。とりあえず裏面を見てみた。
――ついでに、やっつけ仕事だけど、このブレードの柄に巻いた布で額のバーコードを隠すと良い。ちょっと薄手だけど面積はある。スカーフにもマフラーにも包帯にもなる。コードは君のうなじにも付いているから注意して。私の我が侭に最後まで付き合ってくれてありがとう。脱出成功を祈ってる。Good Luck!
 誰かが、ここから出てきてくれと願っている。そしてその願いをCにどうやってか託したのだ。ついでにCも自分の意地を相手に託した。
 突然に身の上に降りかかったサイボーグ化への誘いと同じように、この、地獄からの脱出方法も命令同然に突き付けられる形になった。
 これを断り、O班のもとに戻ったらどうなるだろう。
 ブレードの性能は自分が一番良く実感している。何でも良く斬れる。これがあれば、機関銃を構えられようが、戦車隊を寄越されようが何もかもを斬り捨ててみせる自信がある。狙撃手や待ち伏せの相手にはステルスでも光学迷彩でも使えばいい。影の様に近付いて音を立てずに殺してやれる。
 強化外骨格班の研究とCのブレードの為の調整があわさって初めて実現した「兵器」だ。
 生還した被検体の出来の良さを喜ぶだろうし、ブレードは開発者本人が死んだとは言え、残った研究データか自分が持ち帰るブレードを基に量産されて自分の様に調整されたモノに渡されるだろう。そうなったものを「兵器」と呼ぶべきか、「兵士」と言えばいいのか。
 しかしCは「粗製濫造」を望んでいない。曲がりなりにも金を貰って食わせて貰い、施設の加工機材を使ったくせに、相当に反抗的な態度だ。
 外、自由、自分を待つ誰か……、――彼女。いや、彼女の事は、彼女との繋がりは忘れよう。彼女は一時の幻で、夢の中で会っただけの人間だ。彼女は自分とは違う世界に居て、誰かと楽しく過ごしているのだ。普通の人間と当たり前の家に暮らし、一般的な家庭を築いている筈だ。
 あの下水での誘いと違うのは、外で待つ誰かは「スネーク候補」ではない自分に来て欲しいと望んでいるのだという事だろうか。
 けれども今回も考える時間は無い。現時刻は0020、演習の終了時刻は0600。ほぼ夜明け頃になる。まだ地図の内容は見ていないが、「外」がここから遠く離れた場所だったらCの苦労が水の泡になってしまう。
 Cは勝手に死んで、任務でも何でもない自分だけの意地を通した。Cは外部の人間と勝手に自分の引き渡し日時について連絡してあるかも知れない。ここに残ったら、Cとの約束を守れない。約束自体はCが勝手に押しつけてきた物だが、頼むと言われて、勢いに負けた形ではあるが、了承してしまっている。
 Cが脱出の手引きを請け負うのとブレードのデータの脱出を押しつけたのと、どちらが先なのかは解らないが、Cは確かに自分の意思と意地でこの仕事を実行した。
 そうだ。もう、誰かの意図に従って動くのはまっぴらだ。
 旗と銃を捨てた。Cのブレードをリュックに詰めて背負い、穴に飛び降りた。いつからかそこに住み着いた小動物がざわつきながら逃げていく。酸素は僅かにあるらしいが、念の為貰ったガスマスクを被る。
 缶の中には爪程の大きさのメモリが四枚入っていて、その一つに「MAP、走れ」と書かれていた。残りは防磁ケースに収められ更に防水のビニール袋に入れられた「txt」。生身の人間と強化外骨格では帯電する静電気の量が違うからこんな事をしたのだろう。中身はCのブレードに関する論文かもしくは作り方のデータが入っているのだろう。Cは本名で署名くらいしているだろうか。Cの身元について殆ど知る事も叶わないと思うと、少し虚しく感じた。ただの研究者と被検体という上下関係だと思っていたら、不意に自分も人間ではない、対等だと告白されたからだろうか。それとも、人間だとか何だとかについて語り合ってしまったからだろうか。
 穴から飛び出てCの死体に戻り、血だまりの中から歯の欠片を幾つか拾い、Cがくれた缶に入れた。人捜しだと言って鑑定を頼めば、もしかしたらCの事が少しだけでも解るかもしれない。それに、一部とは言え一緒に外に脱出できる。詭弁だとCは言うかも知れない。いや、ドッグタグだよ、と答えようか。
 俺の出会う人間は皆、中々本名を教えてくれないなと思った。


 網膜に投影される、インストールしたマップを頼りに、夜の闇より淀み、重い道を抜けた先に待つのは何だろうかと思いながら走り続ける。下水も走ったと思う。マップには時折「全力疾走せよ」と叱咤する文が現れた。体内に仕込まれた方位磁針にしか対応していない、GPS連動無しの、様々な所から手に入れた資料を継ぎ接ぎにして作った古い坑道や上下水道等の地図だった。
――れでは、リクエ……、zzbzd……、b――、……What a wonderful world……
 一度狂わされたが、全てのチャンネルを拾うように設定しておいた無線がどこかのラジオを捕まえた。Cの磁気攻撃の所為で無線の発信は出来なくなっていた。体内のナノマシン群が発する電波は弱過ぎて、見付かる事はないだろう。
 ラジオは古い歌を流している。地の底を走る、兵器になった聴覚に、ノイズの向こうからああ、何て素晴らしい世界だろうとしみじみと噛みしめるように歌う声が届いてくる。
 Wonderful world。果たしてどうだろうか。
 マップと激励の文の示すまま、マラソンランナーが走る時間より長く、短距離ランナーの速さで走った。そしてようやく明るくぼんやりと光る所に辿り着いた。地平の向こうの太陽が放つ頼りなくほのかな明かりが遠くに見えた。足元は古く、劣化したコンクリートの上に苔が被さっている。息が弾み過ぎて胸が苦しい。多少の段差があった物の、ただ走るという平面の動きがこんなにも疲れるものだとは思いもしなかった。強化された心肺機能もナノマシン群の疲労抑制も間に合わない程だった。
 外だ。
 そしてもうすぐ、夜が明ける。誰が待っているのだろう。何を期待しているのだろう。自分をどう呼んでくれるのだろう。ふらつきながらも、出口を目指した。ガスマスクを外して朝日を拝んで肺腑に吸い込む空気は相当に美味いだろう。
 望まれた「スネーク」にはなれなかった。そして再び開かれかけた「スネーク」の扉はCが閉ざした。街に住んで彼女を愛するただの「ジャック」にもなれなかった。否、親から貰った筈の名前を消され、「ジャック」自体が後付の、上塗りされた名だ。今の自分に残ったのはわずかな血肉と強化骨格と様々なナノマシンで構成された「ライデン」だけだ。
 Cはチャーリー、C、クレイジー、BC、クリスマス、クラッシャーと様々な偏見と自称で出来ていた。C自身がどれを気に入っていていたのか、気にしていたのか、今となってはもう解らない。
 プリスキンと騙ったスネークにそう名乗った様に、口の中で自らの名を噛みしめる。
「……雷電」
 自分の名前は、自分で決める。Wonderful worldかどうかも、自分が決める。

 


■MGS4の雷電は「ジャックは死んだ」「ジャックはもう居ない」と、やたらと「雷電」のアイデンティティに縋り付きますね。「俺はもう人間じゃないんだし、ローズの事も忘れたいから」という気持ちが原因かなと自分は思いました。スネークに「俺を独りにしないでくれ」「俺の体は機械だ」と言うのも、そう言うところから来ているんじゃないかなとか思いながら後半は肉付けしました。前半は「「高周波メス」の原理が大体こんな感じならブレードはそれを大きくして、電源や整備をMGS世界でお馴染みのナノマシンが補っている感じの筈で、雷電が強化外骨格になった経緯を書いて……」という妄想だけで書きました。
■時期はMGS2からMGS4の間(「MGSR」はそうなる筈、と思っていた時期)をイメージしました。この後ビッグママの下部組織の連絡係と合流してサニーちゃん救出で子連れ狼するんでしょう。(個人的にカーナビ無しのミニに乗ってアメリカを縦横に走り回ったりとか、磁歪型ブレードを連絡係に預けて連係して追手を倒したりとかそんな展開希望)
■「C」についてですが、「Q」「D」と悩んで結局「クリスマス、カーボン、クレイジー」とC繋がりの単語を並べられるので「C=charlie」にしました。本名をクリスマスにしたのは「遙かなるメリークリスマス」という歌に由来します。
最初は凄くマッドな性格な人にしていましたが、某PM教授みたいな「技術一筋頑固一徹数字が全て」の人に直しました。そっちの方が動かし易かったという都合もありますが、頑固過ぎてもマッドになると思い知りました。
■「rising」の前だから「dawn」なんです。
■Cのカードの裏の字は「zeke、2600」で零戦から引用しました。「O強化外骨格班」はコミュニケーション(フォネティック)コードに直すと「oscar=WW2の日本陸軍戦闘機隼」になります。
■Cが刀を量産させたくなかったのは「斬鉄剣」も「逆刃刀」もこの世に一振りしかないから格好いいんじゃないのという、メタな、書いた奴の気分に拠ります。それと、「rising」には「謀反・反乱(電子辞書リーダーズより)」と言う意味もあり、脱出の手引きをしたCの「愛国者達」に対する反抗みたいな意味合いも込めたつもりです。
■とか思ってたらMGR全然違う時間軸の物語になってるこれー! orz

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