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その赤の名は 諸葛亮編「野火」

注意書き

SR魏延が結構粗暴な性格の女の子な小説の連作集です。
「諸葛亮から見たら今回の「武力8、身長180cm近く、それでいて将才アリな女の子魏延」はどう見えるか」的な話です。
初出は2011/10/30発行の冊子版「その赤の名は」です。


以上の事を踏まえて、ご了承いただける方のみ「つづきはこちら」からどうぞ。

 窓の外で、百日紅の花がふわふわと大きく風に揺れていた。その熱気のある夏の風に乗って、遠くから元気の良い女の声が切れ切れに聞こえてくる。
 諸葛亮はその声の主を知っていた。思わず、書面から顔を上げて窓の外を見た。
 大きく揺れる百日紅の枝の向こうに練兵場の一角が覗いて、槍を構えて振り回す男達の合間を縫って掛け声を掛けたり、構えの悪い兵士に手本を示したりしている赤い頭が見えた。
 その様子をしばらく眺めた後、深い溜息を一つ吐きながら背伸びをして、諸葛亮は椅子にもたれかかった。
 ああ、暑いのにあれは今日も元気だと無表情な感想を抱いたが、それよりも先に自分の胸の内に沸いたわずかな苛立ちに気付いていた。
 赤毛と初めて顔を合わせた時の、正体のわからない不愉快さは今も覚えている。反射的に劉備に、こいつを殺せと進言してしまった。自分の君主だった男を殺した短絡さが、あまりにも危険すぎる、そんな人間を自軍に引き入れたとしても、余計な波風を立てる要素にしかなりかねない。その時周囲には、そう説明した。
 あれから時間が経ち、ゆっくり自分を省みて、あの時劉備達に言ったのは良く出来た嘘で、口から出任せに言った言葉に過ぎなかったと気付いた。
 主君を裏切るか見限るかして投降する将兵は大して珍しい話ではない。本当は、諸葛亮は赤毛の、女のくせに、女の身で武力を求めて、しかもその才能が曲がりなりにもあった事に腹が立ったのだ。自分にはそれがなく、背が高いばかりで腕力は無く、口先だけは達者で全く役に立たないと言われた少年の頃を思いだすのだ。
 ただの嫉妬だ。それは良く分かる。冷静に分析できる。そのつもりだ。
 そう思っていても、そのくせして、赤毛と会う度に自分の心に、わだかまりが募っていった。
 例えるなら、墨を含ませた筆から一滴の墨を水たまりに滴らせたような感じだ。あの赤毛の話を誰かから聞く度に、遠くから赤毛の声が聞こえる度に、自分の澄んでいると思い込んでいた意識に、墨のしずくが垂らされ黒い輪を広げる。
 誰かが少しでもあれの武を評価している事で感じられる、幼稚な、自分らしくない怒りであり嫉妬であった。
 しかし、嫉妬を覚える一方で、あの赤毛のことは一応評価はしていた。――本当はこの順序は逆で、諸葛亮は気付いていないが、赤毛の武功が思わず嫉妬を覚える程、評価せざるを得ないのだった。
 将兵の数が少ない蜀において、使える物は好き嫌いせずに使っておかなければ、将来設計も何もあったものではない。
 短絡な所は、作戦内容などをちゃんと説明してやれば的確にこなしてくれるし、そういう意味では扱いやすい。また、裏表のない性格が、将兵に全面的に好かれているようで、赤毛に任せた部隊は予想以上の力を発揮してくれることもあった。
 それなりに兵法を勉強していると見えて、行き詰まった軍議を打開してくれる事もまれにあった。もっとも、性格を反映して、単純な作戦を大雑把に述べてくれるだけだったが。
 対峙する度に嫉妬に塗り変わる自分の胸中を知ってか知らずか、赤毛が諸葛亮の立てる作戦は解りやすくて実行しやすいと、手放しで賞賛してくれたことがある。
 子供そのものの無邪気な驚きと尊敬の表情を前にしても、諸葛亮は赤毛に対して好感情を抱けなかった。
 若く、強く、裏表がなく、燃えるように、時に周囲と大人気ない喧嘩をしてまでも自分の強さを誇示し続けようとする赤毛が、羨ましくも妬ましくもあった。
 しかし、力を誇示しようとする余り周囲との焦げ付きを強めてしまう様は、炎によく似ている。蝋燭や松明に灯すなり、かまどに熾すなり、使い方を間違えなければ様々な恩恵をもたらしてくれるが、一度でも際限を失くせば野山も街も焼き尽くしてしまう。
 彼女自身の中に、「際限」や「重し」はあるだろうか。
 今は自分が「際限」になっているつもりだ。しかし、自分よりも幾分か彼女の方が若いから、いつしか、際限の役を誰かに任せなければならないだろう。
 彼女が自分の知識や知謀を認めて、一目置いてくれているから「重し」になれているのも知っている。果たして、自分が死ぬ前に、その役を任せられる者が見つかるだろうか。あるいは育てられるだろうか。
 自分が亡い後も彼女を上手く使いこなせれば、軍事力の中心になってくれるだろう。
 思考の水底から浮上して、息継ぎのようにまた一つ、諸葛亮は溜息を吐いた。百日紅の彼方からの女の声が、水面にわずかなさざ波をたてた。
 この判断は断じて私情ではない。この国の行く末を左右するものだ。
 もしも重しが、際限が見つからない時は――
 火は、鎮めなければならない。





後書き
何でこれだけ後書きがあるのかといいますと、諸葛亮が魏延を良く思わない理由って色々あるけれど、「嫉妬」というのはどうかしら。と思って書いたからです。
予め読んで貰った人には「この発想は新しいね」と言って貰えました。
作戦成功?

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